Modern English metaphrase of THE SEVEN SAGES OF ROME (MIDLAND VERSION)
Home

[参照] ミッドランドバージョン対訳の前に

E

1985年 卒論ローマ七賢物語(サウサーンバージョン)より

橋 泉

                            
[ v. ]
verai ( フランス語のvrai, 英語のtrue, very,  真実の、本当の、本物の、誠実な、正確な、合法の、
                 まさしく、本当に、確かに、 etc. )             
vertu ( virtue, valour,  徳、美徳、善、長所、女性の貞操、薬などの効能、勇気、武勇、剛勇、 )
vice ( vice, defect,  悪徳、非行、欠点、悪習、売春、欠陥、欠如、短所、身体の障害、 )
vil ( vile,  不快な、邪悪な、下劣な、いやらしい、卑しい、悲惨な、
                    [英古]無価値な、報酬などが取るに足らぬ、)
vilans ( vile, base, ugly,  実にいやな、不道徳な、さもしい、利己的な、庶出の、醜悪な、
                事態・天候などが険悪な、)
vilein ( villain,  悪人、悪漢、犯罪者、悪役、[the villain] 問題・もめ事などを起こした首謀者、)
vileinie ( villainy,  極悪、非道、犯罪、)
vilté ( meanness,  卑劣、けち、貧弱、)
vis ( look, face,  見ること、目つき、、一見、外観、顔、様相、面目、表面、)
visage ( visage,  顔、容貌、外観、)
visere ( visor,  兜の面頬・上下に開閉する、仮面、覆面、マスク、)
vitale ( vital,  にとって必要不可欠な、 生命に関する、肝心な、活気のある、致命的な、)
vou ( vow,  誓約、誓い、誓願、)

[ w. ]

wa ( woe,  悲痛、苦悩、難儀、[古・詩]ああ悲しいかな!etc. )から始まる
w の語彙は大部分 OE で占められている。以下はThe Seven Sages of Rome の O.Fr.借入語例

waite ( watchman,  夜警、ガードマン、見張りの人、[古]夜回り)
waiten ( watch, wait, heed,  注意してみる、見張る、[古]不寝番をする、待つ、
                     注意を払う、心に留める、etc.)
warant ( guarantee, safeguard, 危険・損害等に対する保障、保証書、担保物件、保証人、 
                      予防措置、安全装置、安全通行券、護衛、etc.)
werre ( war,  戦争、戦役、敵意、闘争、軍事、戦略、 etc.)
werreien ( make war, upon, wage war,  戦争を始める、戦う、戦争・論争などが行われる、
                            続く、 etc.) 

第一物語始まり

 夜遅く皇帝の寝所で不機嫌な顔つきをした皇后に、その理由を問うことから第一物語物語導入となる。
Þ emperour asked why ӡhe made semblant so sori.
(The emperor asked why she made semblance so sorrowful.)
皇帝は彼女に何故そんなに悲しげな顔をするのかとたずねた。 この間接話法を次の行の
"O sire" ("Oh sir")
"Þin howen sone,  ("Your own son, ) 
I segge þe ," " Min owen sone?  (I say you, My own son? )
「嗚呼、陛下。」
「貴方の実の息子、 
私は貴方に言います。」  「私自身の息子は?」

に従って直接話法に改めると、ӡhe は、thou である。 この二つの話法が、his worthy companion [ 彼の立派な連れ合い] のような 作者の登場人物に対する限定的な形容と一緒に巧妙に組み合わされて物語が展開してゆく。

皇妃の台詞の原文綴り字は、頭韻 Þin, Min, 同じ綴り字脚韻、sone, sone の 最も単純な詩形のようであるが、現代英語 own  の中世期綴りは、 aӡen,  awen , howen,  など数種類もありこの原文例は、 owen , owen, ではなく howen, owen,  装飾的である。 しかし、無音のhを発音したとすると、hawe sone (dark gray son, ダークグレイな息子) 皇妃からみた息子に色彩的な形容詞をつけて誤訳する嫌いがある。

各物語の始まりは、奇数1・3・5・7・9・11・13は、 皇帝の部屋_大人の表情についての対話から事例、þ cas (this case, この場合)を 皇帝が、"Tell me" と聞きたがる皇妃の誘いのシーン。偶数2・4・6・8・10・12・14は、 朝の城の前の広場_執行直前に騎馬で駆けつけ王子の命乞いの物語を申し出る各七賢人の姿と その他大勢の人々の動き。 この二つの同じ形式が繰り返されて al þe cas, (all the case), tel þis cas( tell this case), how hit was( how it was) 夫人と七賢人が交互に事例を挙げて陳述する15の物語を繋ぐ。 以下はその15編の物語のあらすじと考察である。

皇妃の第一物語

 皇妃は、松の木とその若枝の物語を話し始めた。 昔、ローマに住んでいた有名な自由民は邸内にりんごや松の木で一杯の庭を持ち、 休みにはその庭で遊んでいた。商業の道をたどって一年、彼は家路へつき、彼の庭に 松の木の根から小さな若枝が生じているのを見た。園丁から、その若枝の短い訳は 大枝が陰にするからだと聞き、芳しい二つの大枝を切ると美しい若枝は妨げなく成長し 残りの大枝は押しのけられ最盛期の美を失い枯れて、若枝は空間に急速に伸びていった。 町人はある日それを見て 「老木は勇気を失って以来 地に倒れて若木を装わせたのだ。金子健二訳」 と言った。  松の木の場合は、皇帝の運命に違いない。老木は皇帝を、若木は血を分けて生まれた若い息子を示し 彼女の求める権力を持たない皇帝は、王子の僕となると皇妃は言った。皇帝は、決して騙されることなく 明日の死刑執行を約束して第一夜が過ぎた。

二つの枝は、"þe grete bouӡ" (the great bough) と ”Anoþer" で表されているため
続く bowes 複数形はModE、(現代英語)the others 残りの大枝全部であること分かる。
"Þe olde tre his vertu gan acast"
(the old tree began to cast his virtue)
「老木は彼の徳を捨てた。」
木が葉を落とす意味の動詞 cast が、比喩的に virtue を目的語にして
"Þe olde tre was abrad"
(the old tree was all wither)
「老木はすっかり枯れてしまった。」
までの "leaf" 葉 という意味の単語がない自然描写中で重要な一行となっている。

次の二行連句
For no wonder hit nis
Of þe maister rote hit is
    は、 脚韻の nis と is を綴り字の装飾と単に解釈するならば倒置、 It nis no wonder  から現代英語 'It is no wonder'(不思議ではない)への 一種の類推変化といえる。 しかし現代英語辞書には他に、 'For a wonder ' (不思議にも)という熟語がある。 nis の n は、否定の n のとき、二重否定は、肯定なのか否定なのか正解がないのである。
ただこの物語的に、
It is a wonder of the master root (マスターのルートは不可解だ)的に訳した方が面白いかもしれない。


新訳ミッドランドバージョン、MIDLAND VERSIONと比較

第二物語始まり

 翌朝、皇帝と貴族達が起き家臣が城門を開けると、自由民は城の広場に来て 高い絞首台での王子の死刑が告げられ、そこに裸体の王子が連れてこられた。  馬に乗って来た第一の師 Bancillas , バンシラス に皇帝は、「神は、汝を 神の日と終わりから守りへつらう者は絞殺されるであろう。妃の不面目を見た のだから証人はいらない。」と言ったが、猟犬と騎士の物語をする間の 死刑延期を許し、王子を従士の間に連れて来させた。

Ne were þou wone be god and mild?
(Not were you accustomed to be good and mild?)
貴方は常に温和で親切ではありませんでしたか?

この否定疑問文は、皇帝に肯定的な答えを期待している。

Hit nis non hale to leue stepmoderes tale.
(It is no health (salvation) to believe stepmother's tale)
継母の話を信用するのは健全ではない。或は罪と死からの救いではない。

『 古い英語では、否定を重ねることによって強い否定を表した。出典不明
しかし、
It is_____________ 構文の二重否定が、控えめな肯定を表す例も、他の作品例に見出せる。
"It is not for nothing that he read Plato."
「プラトンを読んだかいがあった。」
確かなのは、Seven Sages of Rome 幾多の詩行において、It nis = It is である。 

 人物の様子を
皇妃 'hire face' (her face, 彼女の顔)
皇帝 'god semblant and glade' (good semblant and glad, いい顔つきそしてうれしそうな)
    'cher' (cheer, countenance, 顔つき、顔にあらわれた落ち着き、表情からみた顔)

類義語で使い分け、近代現代文学の繊細な心理描写の先駆けかと行間にそういう語彙を他に見つけたいが それが分からず次の物語が始まる前場面の執拗な単調な繰り返しに辟易してしまう。