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2021 翻訳中です。 K


原書 THE SEVEN SAGES OF ROME (MIDLAND VERSION)

ローマ七賢物語 (ミッドランドバージョン) オックスフォード大学出版 2005

INTRODUCTION 和訳

第6物語 "Puteus について、 全体を通読して見るとD版の台詞への傾向は顕著で、詩に避けられない真に迫っている効用が 増してきます。

55ページ

門の扉の鍵をかけて夜明け前に逢引をしていた妻を家の中に入れなかった夫は、妻が井戸に石を落とした 水の音を自殺行為に及んだ音と早合点して外に飛び出しました。 不幸な夫が今度は妻に内側から閂で戸締りされたところを夜警に見つかった時、D版だけが行方不明のスパニエル犬を 探しているところだと言って窮地をうまく取り繕うとする彼を滑稽な会話で描写しています。

 登場人物の描写力と話法操作の両方に関して校訂者の技能が最も優れている例は、第14物語  Inclusa の例に見出せます。 この物語における一人のナイトは夢の中で未知の女性に恋慕して彼女を探しに出立します。 彼は彼女をよその国で見つけますが、そこで彼女は彼女の夫によって塔に閉じ込められています。 彼女は彼の愛に報い、(彼女もまた彼の夢を見たのです。)結局恋人同士は一緒に逃げます。 D版では、夫は塔から身を投じて首の骨を折って死にました。

このストーリーのD版の論じ方は、物語集としての七賢人が熟練した校訂者が可能にした 見解と物語の術策の微妙な変化にいかに反応できるかを示しています。 D版の校訂者は、妻の品性と他のバージョンでは『得難き喜劇物、物語中の白眉、金子健二氏の引用』と批評される ストーリーを変えます。彼女を抜け目のない理知的な女性に設定し、彼女自身が逃亡計画を立案したことに責任をもたせる ことにしたのです。 他のバージョンでは、彼女の愛人に責任があります。

カール・ブルンナー編集本B版 第14物語(139ページ2881-2行) の表題が明確にするように:

Maxius tale of an erle how a knyght   マックスシアス師の伯爵の物語は騎士がどんなぐあいに
Maxius tale of an earl how a knight
disseyved him of his wiff.       伯爵の妻をだましたか。
deceived him of his wife.

Hans R.Runte ハンス博士は指摘します。妻の責任よりもむしろナイトの責任が、俗にいう女の姦計を用心 する道話でもある物語のインパクトを弱めるのです。そして"Latin Historia Septem Sapientum" ラテン語『七賢人物語』において校訂者は、中期英語版ではマクセンシアス師の第14物語 Inclusa を皇妃の話す物語にすることでこの問題を解きます。彼女は ナイトが彼の君主である伯爵に背いた不義を強調して語ります。 中期英語D版は、種も仕掛けもある企みの責任は妻にあるように違う角度から描くことで 問題を解決します。 いかにも枠組み論理の観点からそういう道徳的物語向きのある「悪女」にしたのです。 しかしそうする場合にD版の校訂者は、原典の物語の一貫性、登場人物、動機を考慮し "Inclusa" をさらに機転を利かせて書き直しました。144

この本文の注釈144: しかしながらD版は、他の凡ての中期英語詩に翻訳したフランス語原典の詳細を省略します。 それが保存されている数種の原文でナイトは妻のいる塔に通じる秘密の入り口を造る責任を果たした 石工を殺害します。D版では妻の有罪性(過失か故意)を枠組み物語の言い方では(七賢物語全15 和のうち奇数話を后妃が語り偶数話を七賢人が語り最期の1話を王子が語る。このホームページの 現代英語訳、和訳目次参照) 「悪女」として書き留めるのに D版編集者側のナイトが石工を密殺する詩行の省略は、多分校訂者がナイトの性格を汚したたくなかった、もしくは拡大解釈して 主人公とその愛人に対する我々の同情を減じたくなかったのだろうと思います。 そういう読み方は無論、枠組み物語、寓意、訓話の規定に逆走することになります。

D版では、妻が彼女の愛人に指輪を渡して
56ページ
彼女の夫がそれをはめている彼を見たか確かめてからその日の晩には彼女にそれを返すようにと彼に言って 妻が逃亡の口火を切ります。 その他の写本原文では、彼女は愛人に彼女のことを思い出させる一心で指輪を渡し、 貴族がナイトの指のリングを見てそれは妻がはめていたものだと分かった時、 これが偶然の錯雑した関係の原因となります。 幸いにもナイトは貴族の驚きを感知して秘密の通路から塔のレディーの居室に 彼女の夫よりも先に到着し、指環を彼女に返して発覚を妨げることができました。 しかしD版においてこれは全ての部分で妻の奸計です。 夫が彼女の指輪を見せてくれと言うと彼女はその証拠を提示することが出来て、 彼は一つの指輪はもう一つの指輪に疑いなく似ているのだろうと推断します。 後で、この結論はまさに妻が見越して望んでいたものであると 我々には分かります。 この指輪の出来事は彼女が発案した本物の指輪計画であり完全に入念な準備ができていました。 彼女の愛人は彼女の夫に今彼の故国に帰れる旨を次のように話す段取りです。すなわち 彼は、殺人の廉で故国から追放されさすらい人となって彼女の夫の国で暮らしていたが、 彼の故国のレディーがニュースを届けに来てくれた。 その他のバージョンでは、このプロットを考え出すのは愛人である彼自身です。 妻は夫がそのレディ―に会いたがるだろうと予想し、それから彼女自らが異国の衣装で変装して 故国から来た女性に成りすまします。 彼女の愛人が彼女の夫は彼女を見て仮装を見破るだろうと反対すると 妻は指輪の目的をひそかに知らせます。 一つの指輪はもう一つの指輪に似ていたと誘導して信じさせたのだから、 彼は今恐らく一人の女は違う女にそっくりに見えると判断するでしょう。

D版 第14物語2989-94)  (現代英語訳と和訳はこのホームページから)
Therfore dout the nought,   だから恐れないで、
Therefore never fear,
Thys schal been al hys thought:  彼の思考の全ては次の事柄でしょう。
This shall be all his thought:
As a rynge was lyche anothyr,  一つの指環がもう一つの指輪と似ているように、
As a ring was like another,
So may a womman be lyche anothir.   一人の女性が別人と似ているということはよくあることです。
So is many a woman like another.
There schal the knote of gyle be knyt-  そこで背信の結び目が作られるでしょう-
There the knot of the treachery shall be tied-
The rynge schal blynde hys wyt. この指環は彼が正気を失うために必ずや目を暗ますものとなってくれるでしょう。 The ring shall make a blind to lose his wit.

計画はうまくいきます:ナイトと「レディー」は彼の自国に帰ることを許されます。 D版の校訂者側の圧倒的な手腕は妻に陰謀を煮詰めさせたことです。 その密計は、指環と女性を同等なものと思っている夫の本質的なアンチフェミニスト的反応を 彼女が正しく予測するかどうかにかかっています。 用心深い夫に監禁された妻は彼女の脱出計画のために夫の著しいアンチフェミニスト的傾向を利用 するのです。 なおその他のバージョンでは、ナイトは全くのまぐれで彼の計画を見事にやってのけますが、 それはただ単に見慣れない衣服をきた女の変装を当てにしているのです。 たまたま領主は、まだ初めごろに指環の出来事があったのでかえってそのレディーは彼の妻ではないと思う ばかりです。 D版のように。 しかし、他の幾つかのバージョンではこれは陰謀の部分ではなく単に非常に運のよい偶然の一致なのです。

57ページ

 計画した変装に意義ありとする愛人の声は、彼の出所の劇的趣向の薄弱な筋の仕組みに反感を 抱くD版編集者の代弁者としての見方とも言えます。

D版 第14物語2981-4
Quod the stywarde,"That may nouӡt fye!
執事は言いました。「それは恐らくうまくいくはずがない。
Said the steward,"That may not work out successfully!
And he se the with hys eye,     彼の眼は節穴ではなく貴女をちゃんと見るからです。 
And he see you with his eyes,
Anon as he haues a syght      彼は彼女を見るや否や
As soon as he has sight of her
He wyl knowe the anoon ryghte."   彼はすぐに貴女だということがわかります。」
He will know you at once.

D版の校訂者は、他のバージョン(このIntroduction訳ABページの系統図参照) では偶発的であった指環の細部を妻の性格も彼女の役目もそして物語の構成にとっても それが中核となるように解釈しました。 彼は妻を 夫に拉致されたあげく愛人のナイトによって他国の服を着せられ変装した受身の女性から 彼女自身の物語の機転が利くヒロインに変身させました。 そしてそうすることで彼はこの物語そのものを固有の物語の推進力と一貫性のある一話にしたのです。 前述したように妻に能動的な役をふることでこのストーリーは女の瞞着に対する範例としてよりほどよく 作用をします。 しかし、このように妻の性格描写を書き連ねることで編集者は、私達の視点を妻と夫の面よりも 妻と愛人の有様により接近させて行間を定めたとも言うことができるでしょう。 そのうえD版は、妻の塔の見えない入口を造った石工を愛人が殺してしまうまでの場面 を省略しておりそれも 愛人への好感の変化を示唆しています。

翻訳者の補足概説 "And he was come from a far country" 第14物語に遠国出身の石工が登場します。ナイトが彼の秘密の全容を告げて彼に秘密通路計画を依頼して 完成するまでの詩行(カール・ブルンナー編集本、B,E,Ar,F版,148-150 ページ)B版から抜粋します。
B版 第14物語3036)
.......................
Ffor j you shall never bewray.
  私は決して貴方の秘密をうっかりしゃべりませんから。
For I shall never betray your secret.
.......................
B版 第14物語3061-64)
Whenne he hadde done hys queyntyse,
  彼が熟練の仕事を終えた時、
When he ha done his skill,
Fulle euylle he quyttyed hys seruyse;  悪漢である彼が要求した石工の技術に対して
Full evil he  requited his service;
The knyght hym slowe there, certayne,   ナイトは彼をそこで殺害しました、確か同じ日に、
The knight him kill there , certainly,
For he shulde hym not bewrayne;   彼は彼を裏切るべからずだからです。
For he should him not betray;

Introduction 本文続き】  このストーリーは、個々の物語が どのようにして形成することができたのか、彼等の枠組み物語の範囲内でも逆にも機能するのか を示しています。 そして全体としての物語集というジャンル、特にローマの七賢物語に内在する観点の変化を利用できる原文校訂者 に、七賢人達が改変の余地をいかに提供してくれたのかを著わしています。

7. DD.1.17 の方言

57-58-59ページ The Seven Sages Dd.I.17 ミッドランドバージョンは、難しくて多分解けない問題を提起します。 Dd.I.17は1400年頃のものと推定しますが、「七賢物語」原文に含んでいる内容は遥かその100年前まで に流通していたかもしれず、現存する中世期原文の背後に幾つのエピソードのコピーが置いてあるのか 知る由もありません。 特にオリジナルの同韻語の多くが写字生によって誤って扱われたことからもわかるように 原文がどの程度まで誤写若しくは改変されたのかは、伝播の過程が長いだけでなく地理的にもかなり違っていたことを 示唆しています。 その結果、この"The Seven Sages"「七賢物語」のバージョンは言語学的な観点から見るとその研究に最も有益な特徴を なしています。 "Mischsprache"(スコットランド人と中世英語、言語学的エッセー)のように 原文は、筆写者による「翻訳」の不完全な過程を通り大まかに認められている中英語の方言領域の一領域以上に 固有の特徴を示しています。 「筆写業者と写本伝承」「後期中世写本と原文の地方主義」を著わした M.L.サミュエル(Samuels) は、「七賢物語」Dd..1.17版のような 筆写者が書いた方言的に混成した言語を解きほぐすことははなはだ困難であると強調していました。 彼はPiers Plowman『ピアズ・プラウマン』のコピーに加えてMandevill's travels『マンデットビルの旅』 そしてHow Men þat Been in Heels Schulde visite Seeke Folke『ヒール・シュルド・ヴィジット シークェーサーにいた人々の様子?』を参照しましたが、Tne Seven Sages 「七賢物語」は、その手書き本である中期英語原文テキストの中にひっくるめてあります。 厳密に言えば、 写本筆写者の言語的プロフィールは、 これら全ての原文を考慮して疑いなく異なる伝播の歴史があったテキストの重要性を認めた上で 広範囲な調査を基底として調べられるべきです。 そんな究明は現在の調査範囲をはるかに超えていて それでも"The Seven Sages"「七賢物語」だけに基づいて作成した言語的プロフィールは、 伝達の過程で筆写者が好んで借用した言語形式(古フランス語直訳からの語源?) がどれほど広範囲に渡り先人(アングロ―サクソン語)の言語形式と 混合されるようになったかを例解するのに役立ちます。 標準中期英語の方言規準はMoor(ムーア)Meech(ミーチ)Whitehall(ホワイトホール)によって確立され MED(中期英語辞書)に採録されました。それを適用するとすぐに S.S「七賢物語」方言はnorthern 北部とミッドランド(中部)言語形式の混合だということが わかります。現在時制の複数語尾が s であるとの理由でthe South(南部)が除去された例は、 -ys(北部)−en(ミッドランド)そして "foot" 「足」は、"vot" よりもむしろ "fot"の語形で表されています。
けれどもこれらの検査は、それだけの判断基準では D版がコピー(写本の筆写)されたかもしれなかった土地の領域を絞り込むことはできません。