ホーム
home
現代英語訳
modern English version
和訳
a Japanese version
花と木の写真
flower & tree photos
飛行機の写真
air photos
東京ドーム
Tokyo Dome

中世ロマンス作者不詳  ジル ホワイトロック博士編集の和訳        

  1週間15編の枠組物語集 7日7晩と8日目

     目次

           

ローマ七賢物語オープニングの長いプロローグ

 1. 第1夜  王妃の第1物語 木

 2. 日曜日  1番目の師バンシラスの第2物語  犬

 3. 第2夜  王妃の第3物語  イノシシ

 4. 月曜日  2番目の師アンシルスの第4物語  医者

 5. 第3夜   王妃の第5物語  財宝

 6. 火曜日  3番目の師レンチュラスの第6物語  井戸

 7. 第4夜  王妃の第7物語  執事

 8. 水曜日  4番目の師マラダスの第8物語  審判

 9. 第5夜   王妃の第9物語  バージル

10. 木曜日  5番目の師カトンの第10物語  鳥

11. 第6夜  王妃の第11物語  賢者

12. 金曜日  6番目の師イエスの第12物語  寡婦

13. 第7夜  王妃の第13物語  ローマ

14. 土曜日  7番目の師マルシアスの第14物語  閉じ込められた妻

15. 8日目  王子の第15物語  予言

a Japanese translation  和訳

8. 水曜日 4番目の師マラダスの第8物語 審判 

 

a English translation(英訳)


Page48, 1674-1696

  「陛下。」マラダス師は言いました。
「注意してよく聞いて下さい。
その事件がいかに残忍であったを。
一人の男は老年期になって
一人の若い女を妻に娶りました。
なのに性的欲求においては熱情が冷めていました。
一方乙女は驕慢になってきました。
彼が積極的に性行為をしなくなった時には
彼女は一人の神父を愛し始めていました。
ある日彼女は教会へ行き
彼女の母親と相談して
直ちに彼女の母に言いました。
「私の夫の男盛りはとうに過ぎて衰えています。
今どきの彼はセックスすることを怠っています。
私は他に愛人がほしいのです。」
「娘よ。」母親が答えました。
「私は助言もできないわ。お前がそんなことをするなど言語道断です。
たとえ老人がじっと黙り込んでいても
娘よお前は何も知らないのよ彼は何をすべきかすべきでないかの問題を 決断する理性があるってこと。
お前がそんな行為をするまでは。
真っ先に彼をお試しなさいと私はお前に忠告しますね。」
娘は直ちに彼女とさよならして
処世術に長けるために素早く行儀よくし
それから彼女の夫を試そうと謀を廻らせました。

[・・・・・・・・原文空白箇所・・・・・・・]

Page49, 1697-1733
  老いてなおロードであった男は丈夫な木を所有していました。
その辺りには一本の美しい喬木が立っていて
ロードはその木をこよなく愛でておりました。
彼の果樹園の中にそんな
実りのよい精選西洋ナシは一本しかなかったからです。
その西洋ナシについて承知していた妻は
彼女の下男のうちの一人を連れてその果樹園に行きました。
そしてすぐ彼女は若木の下に来ました。
それから直ちにいかにもいたずらそうな顔つきの人のように下男にやらせました。
西洋ナシがなっている木を切り落とし幹や枝も小さく切り取らせました。
屋敷に戻ると広間でそれを整えながら置きました。
それを見て彼がなんて言うのかを試すために。
夫が帰宅して大きな部屋に入ると
彼は木に目を留めました。
「妻よ。」彼は言いました。「この木は大きくなったのですか。
こんな風に荒削りの断片になってそこに積んであるのは。」
「サー。」彼女は言いました。「貴方の木に、
西洋ナシはもっと遠くにも近くにもその枝を張りません。
「神かけて妻よ。」彼はその時言いました。
「今はもう西洋ナシは薪なのだ、何も言うな。」
彼は心中では激怒していましたが、
彼は喧嘩するのをひどく嫌いました。
彼は考えていることすべてを言わないでおきました。
  翌朝娘は素早く教会に行きました。
礼拝堂に入り母親が座っている長椅子に来て
言いました。「お母様、神が私たちを成功させたまうように。
私はお母様の命令どおりにしました。
お母様がよくご存じの彼の美しい木、
西洋ナシの木は広く高く分岐していました。
私はそれを根こそぎにさせました。
それにもかかわらず切れ切れになった西洋ナシの木を見て彼は腹を立てなかったのです。
「娘よ。」母親が言いました。
「私にはお前のために良い考えがあるわ、誓って
もう一度また改めて彼の出方を待ちなさい。
情にほだされてお前と離れがたくなるまで。
たとえ彼が無言で表していなかったとしても
彼の胸中は察するにあまりあるのですからね。
Page50, 1734-1771
彼女は母親の一理にしぶしぶ同意しました。
その後芝生の中の一つの石のように音もたてず家路に就きました。
その道中ずっと考えていました。
一つか二つの悪事を。
そしてわけもなくひらめくと直ちに
彼女はひとつのとびきりきわどい悪事を彼にしてやりました。
  夫は小さな猟犬を一匹飼っていました。
たとえお行儀が悪くても彼はその子犬を上手く躾けていました。
いつもと変わらぬ日の出来事でした。
一匹の可愛らしい子犬が彼女のスカートのひだの上に横たわりました。
神は彼女に不運を与えました。
彼女は突然彼女の膝の上に座っている小さな猟犬を彼女のナイフで突き刺しました。
「妻よ、」彼は言いました。「何故お前はそんなことをしたのか。
その振る舞いはお前にふさわしくない、エクセントリックつまり常軌を逸しているってことだよ。」
「サー、」彼女はいいました。「怒らないで
見て、彼は私の服を血で汚したのです。」
「妻よ、」彼は言いました。「聖リッチ―にかけて
お前はお前自身の服を近くに引き寄せて
そうしてそっと私の命を繋いでいる猟犬達を生かしたまま
彼は貴女の服の上で横たわっているけれども
もしお前が殺したのなら私は怒りますよ。」
それを聞いて彼女は考えました。「彼は許すだろう
彼の妻の道ならぬ愛人を持つことを。」
  小さな猟犬が亡くなった日に彼女は教会への道をまっすぐ進みました。
間もなく彼女の母親のベンチに彼女は来ました。
「お母様、」彼女は言いました。「神に誓って
私はお母様の命を受けてそのとうりやってみました。
私の夫は小さくても獰猛な猟犬を一匹飼い
彼はその犬をそれはそれは可愛がっていました。
そう神は私に幸運をお与えくださり
すなわち私は私の小刀を抜き
私は私の膝の上にいた彼を殺しました。
かくて彼の心臓から血が流れて死なせてしまうことになりました。
それなのに彼はエクセレントに似た発音エクセントリックという響きの良い言葉を言っただけでした。
私は口ごもらないわ。確信して
私のやる気はどんな場合も愛のため。
本当に、お母様、私はもっともだと
彼が無慈悲な人ではないと確かめることができました。
Page51, 1772-1809
「娘よ、」そこで母親は言いました。
「そんなことしちゃだめよ。神父様?
老人はそういうばかなまねをたくさん見ても我慢しているんじゃないかしら。
でも実際は彼の復讐はむごたらしいのです。
だから私の対策はこういうことよ。
貴方が悪事をはたらいて彼を試すのは三度まで。」
「お母様、」娘はそれを受けて言いました。
「快く、誓って
たとえ彼が決してそんなにものすごく憤慨してなくても
仏の顔も三度までということよね、私はもうそれ以上は彼をテストしません。」
そう合点した彼女は母親と別れて
彼女自身の家の方角へ向かって帰りました。
道すがら
一つの悪いことを考え出しました。
  その後程なくしてたまたま
亭主が客人を接待することがありました。
大変上品で礼儀正しいお客様が集まり
あらたまったな宴会は開かれました。
彼らが席について喜んだので
亭主は晴れ晴れとした表情をして見せました。
妻は彼女のローブのベルト飾りのように吊るした鍵を固く結びました。
テーブルクロスの端に。
彼女は立ち上がり客人達をもてなす身振りで歩くと
テーブルクロスが引っ張られてめいめいの皿やカップが落ちました。
それで彼女の濃緑のローブが台なしになって
さらには客人全員を迷惑に巻き込みました。
亭主はえらい剣幕となり
他のテーブルクロスを広げて掛けさせました。
そして彼らの衣服についた汚れをふき取らせて食器をきちんと並べ直しました。
その上彼はできる限り彼らの靴にこぼれた食べ物を拭い取って磨かせました。
  彼の客人達が退場してしまうと
彼らは呼び起こされる悲哀というものに彼ら自身が沈んでいきました。
亭主とその妻の間に
その時から不和が高じてきました。
「妻よ、」彼は言いました。「必ずや、
お前は三度も私に無礼な仕打ちをしましたね。
だから神は私を美徳の人にしてくださった。
お前を抑え付けることができるどうか懲らしめてやろう。
Page52, 1810-1846
妻よ、お前は三度狂乱した。
本当にお前に瀉血治療を施してやろう。」
彼は彼女を一部屋に通しました。
亭主と兄(弟)は
そこで片方の腕から血を採り
その後もう片方の腕も放血しました。
彼は妻の体内の血液を残しませんでした。
彼女の生命を維持するのに必要な最小限の血液量以外に。
彼女が全血液量の20%以上を瀉血して気絶すると
彼は彼女をきれいなベッドに寝かせました。
彼女が意識喪失から目覚めた時、
彼はすぐさま彼女に飲食物を運びました。
それから「マダム、」と話しかけました。「絶対安静にしてなさい。
これを食べたり飲んだりお前の好きなようにしてよいのだよ。
貴女が気が狂ったようになった時はいつでも
あなたの血を採らせよう。
「サー、」彼女は答えました。「どうかお情けを、私は真剣に請うています。
そして私は今ではもうあなたを不誠実だとは感じないのです。」
「誓って、」 ベッドの傍らで彼は言いました。
「貴女がもう決して悪に走らないという条件で、
私の目の黒いうちにそのような過ちを繰り返さなければ
この三つの悪い行いは許してあげよう。」
それからというもの彼女はもう
神父(牧師)の教えなど信じようと思いませんでした。
瀉血を恐れたがために。
貞操を守って変わらぬ信仰心を持ち続ける他に道は残されていませんでした。
  「陛下、」 マラダス師は言いました。
「御覧あれ、そういう苦境に
もうちょっとのところで老齢賢人は立たされました。
彼がもし折檻の仕方を学ばなかったら
彼の命令で彼の妻に対して。
いかにも不道徳の流儀で彼が神によって滅ぼされたという物語になったでしょう。
確かに、皇帝陛下、
かくして陛下も貴方の面目を失うは必然です。
もし陛下が貴方の奥様の要求に応えるならば
それは陛下のよるご子息殺害計画。
その後彼女はさらにもっと幾つかの罪を犯して
Page53, 1847-1875
朝な夕な陛下をますますひどい悲しみに包みこんでいくのです。」
皇帝は申しました。「聖マルタンに誓ひて
私は彼女を許しません。私の妻であるという彼女の存在。
だから私はいつも頭を割る。
今日私は息子を死なせない。」
  これを聞いた皇妃、
彼女はとても悲しみました。
彼女は嘆息をもらしつつ悲痛な面持ちを装い
その日は誰も彼女を元気づけることができずに日が暮れました。
就寝時間が迫ると
彼女は苦渋を味わったようなため息をついてから何も言いませんでした。
すっかりくつろいで横になっていた皇帝は
彼の妻がしきりにため息をつくのを聞いたので
尋ねました。「妃よ、貴女の要望を私に言いなさい。
どうして貴女は嘆き心ならずメランコリーな表現のように黙ってため息をつくのですか?」
皇妃は皇帝に答えました。
「確かに、陛下の名誉ために。
陛下は欲張り根性に動かされるのです。
何かが引き金となって陛下の悲しみは沸き起こるでしょう。
陛下は自分の持っていない物を手に入れるためには手段を選びません。
陛下の七人の学者達の物語を聞きそそのかされて
陛下がすべてを望まば名誉も何もかも失うのです。
皇帝クラッススが死んだように
貪欲という王の属性のために虐殺されました。
法的手続きをふまずに。」
皇帝は申しました。「ヨハネかけて、
貴女は直ちに私に語りなさい。
どんな状態でクラッススは大欲ゆえに失ったのかを
彼の命、どういう風な結末だったのですか。」


卒論バージョン、SOUTHERN VERSIONと比較


十五編の枠組み物語集 目次


a Japanese translation  和訳

9. 第5夜 王妃の第9物語  バージル 

 

a English translation(英訳)


Page53, 1878-1879

  皇妃は彼女の物語をはじめました。
決まり文句から、「陛下、ある男がいました。
マーリンと呼ぶ一人の学者で
大建造物を生み出しました。
Page54, 1880-1916
彼は魔法のような技術によってローマに造りました。
大変高くそびえたつ柱を。
他のどんな塔よりもはるかに高い
柱頭には鏡が装備してありました。
町中のすべてをこの鏡に映しました。
いわば昼の光があたっているみたいに
夜警たちは見ることができたのです。
もし誰かがこの都市にやって来ても
如何なる攻撃を仕掛けようとも
都市は迫り来る危険を警告してくれました。
  周期的に争いがありました。
ポイルとローマ市と2王国間で。
ポイル王に戦争をする力はありませんでした。
夜間ひそかに町に忍び寄って。
なぜなら鏡が光を発して
遠くにも近くにも明るい光を投げていたからです。
二人の学者がポイル王の国にいました。
大仕事を引き受けたのはこの二人の兄弟でした。
不思議な鏡を落として柱を倒す企て。
その鏡はローマタウンの至る所を照らしていました。
王は学者両名に聞きました。
報酬はいかほど所望いたすかと。
学者の一人が王にいいました。
「しかと、陛下、私達は何もいりません。
鏡が下ろされる前までは。
ですが射落とした時には我らに褒美を下され。」
ポイル王は申しました。「私の企図を成功せしめよ。
私は十分にかなえて上げようと思う。
その時兄が言いました。
王様、貴方様はその目論見のためにそれとは別にお金を工面しなければ、
万事ぬかりなく慎重かつ沈黙を守って、
二つの櫃を貴方は満たさなくてはなりません。
黄金と宝石とで。
そのために棺を作らせるのです。
急いで手配すれば
鏡はその光を失うでしょう。」
王は彼らのために躊躇なく用意しました。
Page55, 1917-1954
その当夜二つの櫃に金銀宝石をたっぷりと詰めました。
  翌朝彼らは旅に出ました。
まっすぐローマの都市に参りました。
朝彼らはミサを拝聴し、
その後で彼らはいっしょに遊びに行きました。
彼らは広場でも門でもない特定のランドマークのない場所まで道をたどりました。
それからあたりを見渡して誰も来ないことを確かめると
棺よりも小さな穴を二つ作り、
櫃を二つとも埋めました。
そしてその地にはっきりした目印をつけて
どこに宝を隠したのかを示しておき
石のように静かに出ていきました。
彼らは直ちに皇帝の下に現れ出で
宝探しを持ちかけました。「我らは知っております。皇帝陛下殿、
この都市周辺に莫大な財宝が
地下に眠っているからには
もし陛下が探せば明るみになるでしょう。
今夜、私共が見る夢でお告げがあるでしょう。
財宝を埋蔵した場所を教えてくれるのです。
皇帝は申しました。「聖マルタンに誓って
私は学者達に自腹を切ります。」
彼らは皇帝の宮殿を後にしました。
  太陽が昇り出て輝いている朝
皇帝のところに直行して
言いました。「自信をもって皇帝陛下、
私達は宝のありかを発見しました。
それで陛下、一人の男を我々と一緒にお連れ願いたい。
できることなら賢い男を
ほんの少しの間我々の近くに立たせて
宝を見出す時にそれを保管しておくためです。
皇帝は早速彼らと共に一人の男を雇い入れました。
そうして彼ら自身の出発準備が整い
そしてしばらくして地面を掘った。
すなわち財宝に満ちた第一の櫃が瞬く間に見つかり
取り急ぎ彼らは皇帝の下に行き
彼にその高価な宝石や黄金を見せて献上しました。
皇帝は十分満足して
Page50, 1955-1992
まるで福音書と同じように本当なのだと信じてしまいました。
学者達が彼に知らせた事がです。
しかし全部何から何まで嘘だったのですけれども。
夕闇も迫って来ていた時、
二人の学者達は立ち去り
再び彼らの宿屋に向かいました。
彼らは一晩中宿の床に眠りました。
大喜びして寝入りました。
絶対にうまく行くと成功を期待していたからです。
  翌日夜が明けると
長い時間彼らは床に入ったまま計画したくらみました。
皇帝の下に彼らは焦って急ぎました。
彼の目をもっと欺かねばと。
学者の一人が直ちに言いました。
「本当に、陛下、私たちは行かなくちゃならないのであります。
財宝を再発見致しました。
今晩私たちは夢を見、
それがために宝を再び見出す間そこで待っている男をひとり派遣してください。
昨日のように彼は私達と一緒に行くのです。
それを聞き皇帝は一人の男を直ちに引き渡し
彼らは間もなく埋蔵地点へと出発しました。
彼らがもう一度掘り返すのにあまり時間がかからず
第二の櫃はたいそう早く見つかりました。
深く掘る必要がありませんでした。
二人の学者が彼ら自身で隠しておいたのですから手に入れて当然です。
彼らはその財宝を直ちに持ち帰りました。
まさしく皇帝の面前に。
皇帝はそれを見て喜びました。
このような学者を二人もてたことを。
どこへ探しに行けばよいかとじかに教えてくれたのは学者達でした。
彼らは財宝がどこに隠されているのかのこらずよく知っていました。
皇帝は彼らがうそをついているのを聞いたのですが、
彼らはそれをあたかも天与の霊感によってでもあるかのように掘り当てることになりました。
そうして彼らに褒美がふんだんに投じられました。
とどのつまり皇帝は彼の財産をすべて失うはめになるのですが。
たそがれ時が近づいた時
二人の学者はそそくさと立ち去り
厚くもてなされて宿屋に帰りました。
Page57, 1993-2030
それから皇帝を嘲笑しました。
それでいて彼らはくつろぎました。夜から
東の空が白む朝まで。
  夜が明けた朝、
ベッドの上で彼らには実際よりも長い時間が経過したように思われました。
陰謀に着手するために両名参上しました。
皇帝のもとへ急ぎ、
彼らのうち一人の学者が話し始めました。「皇帝陛下、
鏡を支える柱の下に
黄金の蓄えが隠されています。
日の下に最も高価な品の一つがあるのです。」
「はっきりしていることは、」皇帝は言いました。
「私は財宝のほんの一部分も欲しくはない。
何故なら柱が倒れて鏡が落ちて破損してしまうではないか。
この都市を守り助けてくれているのに。」
「陛下。」一人の学者が言いました。
「私たちは道具を揃えて仕事の準備を万端にできますから
鏡は固定したままにしておいても持ちこたえます。」
皇帝は申しました。「聖ミカエルによって
よろしい。そのように約束しよう。
行きたまえ、全能の神が成功をもってその労に報いるだろう。
だからこそ鏡に留意しなさい。」
学者達はさっそく坑夫達を連れて
円柱(角柱)の塔へ行きました。
彼らはどんどん掘り進め
とうとう抗夫たちは口々にしゃべりました。
どうやって柱に真鍮の鋲を打ち
しっかりはんだ付けをして接合したのだとも。
二人の学者のうち一人が言いました。「さあ今さっさと
抗夫達、作業やめ。」
穴掘り抗夫の姿が見えなくなると
学者達は直ちに火を焚きつけました。
円柱(角柱)の塔の土台の全周に。
するとその火は柱の外側ををぐるりと取り囲みました。
  こうして彼らが火の不始末をしでかしてから
帰ったのは真昼時でした。
彼らは皇帝の面前に馳せ参じて
明日財宝を得られるでしょうと言い残しました。
Page58, 2031-2068
二人の学者は静かにその場を引き上げ
彼らの宿屋に戻らなくてはならないのです。
滞在中彼らは手はずをつけて仕掛けを考案しました。
柱は垂直に立ったままで
征服しようとする敵を写して圧倒する目もくらむばかりの鏡を大破壊する方法。
鏡か柱か皇帝は鏡にうつらない柱の下を発掘する許可を与えてしまったのですが
二人の学者も今はもはや留まることは不可能になりました。
二人は宿屋に着くとすぐ
彼らが泊まったホテルが建っている所から逃げ去りました。
火は熱く火力は衰えずに燃焼しました。
そしてついに半田合金を溶かしました。
彼らは町の境界を越えて少し離れた位置にいました。
そこから塔の柱が倒れるのが見えました。
  都市の貴族たちは皆傷つき悲しみましたがその嘆きは無理からぬことでした。
人々は直ちに皇帝の下に詰め寄り
鏡の焼失について問いました。
なぜ彼は鏡を倒壊させたのか。
町と人々を守り救済に役立っていた鏡。
皇帝は返事に窮しました。
むやみに財宝を欲しがりさえしなければ、
可視の金銀宝石を見てもっと不思議な宝物を求め
まだ見ぬ財宝が柱の下に隠されている嘘を信じなかったでしょう。
ローマ帝国の市民達の中で
金持ちも貧乏人も
賛成しない人は全くいませんでした。
直ちに皇帝を殺すことに。
もうしばらく貴方がゆっくり考えたいのならば
どんな風に彼が殺されたのか私がお話します。
彼が鏡を崩壊させてしまった原因は
財宝に対して貪欲だったせいだ。
全員の意見が一致しました。
その財宝という手段で彼は死ぬべきだと。
彼らは金を採り出して大かがり火をたき
それがすっかり小さくなるまですりつぶして金粉にしました。
それから皇帝の両目玉をくりぬき
二つの眼窩に金粉をぎっしり注ぎ込みました。
目ばかりでなく彼の鼻孔、口腔、咽喉にも。
Page59, 2069-2105
皇帝の身体全部位に黄金をまぶしました。
彼らは完全一致でこうしてやるという程のやり方で
死刑判決を言い渡して実行したのでした。
  皇妃は皇帝に言いました。
「そんな次第で黄金と宝石がもとで
皇帝は殺されました。
何ら訴状も捜索状も書かずに。
かくかくしかじか物語の皇帝同様に陛下が欲に目が眩むまで
七人の学者によるナンセンスなこしらえ事に耳を傾けさせるのです。
陛下は殺されるでしょう、聖なるイエスズによりて
皇帝、クラッススのように。
皇帝は申しました。「聖ニコラスによりて
私はそのような末路をたどりはしない。
七人の学者どもが私に話す虚言を信じたりするものか!
私の息子はよもや生きてこの地に留まることはあるまい。
もうこれ以上 明日中には、
どうぞ神様私を不幸からお守りくださいますよう。」
  朝になるとすぐにも
皇帝は執行の延期を認めませんでした。
彼は子供を殺す揺るぎない決心をして
彼は雷帝のように怖がらせました。
彼は拷問役の一人一人に頼みました。
この子供を直ちに処刑せよ。
[・・・・・・原文空白箇所・・・・・・・・・]

彼らは皇帝の命令通りにいたしました。
王子がもう少しで死ぬ場面になると
多くの人々が涙を流して泣いていました。
間一髪宮殿広間の門の外で馬から下り立った
カトン師に彼らはちょうどその場で出会ったのでありました。
王子は一瞥してから
ぐるぐる回っているカトン師の全身をちょっと見上げました。
賢者のカトン師は
彼の生徒を見ました。
師は彼を心配して担架で運ばせると
早足で皇帝の前へ進み
うやうやしく一礼しました。
一人の皇帝に仕える者として
彼は王が座っている広間で正しく抗弁しました。
Page60, 2106-2140
「汚れなきお方よ、運悪く。」
「嗚呼陛下。」カトン師は言いました。
「メルシー、聖チャリティーのためにご慈悲を!
後生だから皇帝陛下
私の話を聞いて下さい。陛下の名誉のために。」
「黙れ、反逆者。」皇帝は言いました。
「さあて、師のどんな説教を聞けと申すか。」
  「陛下。」カトン師は言いました。
何もかもが条理に反しています。
おしに判決が言い渡され
物が言えないのに嘘をついたかどで死刑に処するというのは矛盾です。
もし王子が今日処刑されるのなら
法的手続きをふまずに。
ある珍事にも似た災難が陛下の身に降りかかるでしょう。
ある市民が家の広間で起こしたような。
彼の飼っていた鳥を殺してしまいました。
彼の妻が仕組んだ証言を鳥がしたからです。」
皇帝は言いました、「聖ニコラスに誓って
貴方はその出来事を話しなさい。
貴方が起こってしまったと言った
市民と鳥に
「陛下。」カトン師は続けました。
「処刑されることになっている王子を
ナイトか年若い召使に命じて
再びすぐに子供を連れて来なさい。
彼の命を保ってやるのです。
私が私の物語を話す間。
さもなくば万物を創造された神に誓って
私はこの事件の真相を語れません。
王子を法廷へ召喚する以外には。
彼は死に近づいていました。
皇帝は直ちに命令しました。
子供の後を追って行かせなさいと。
その場にいた多くの人々は感謝しました。
その後カトン師は彼の物語を始めました。


卒論バージョン、SOUTHERN VERSIONと比較


十五編の枠組み物語集 目次


a Japanese translation  和訳

10. 木曜日 5番目の師カトンの第10物語  鳥

a English translation(英訳)


Page61, 2141-2175

  一人の妻を持っている一人の特権階級の自由市民がいました。
彼は彼女を我が命のように愛しました。
そして彼は話をするオウムを持っていました。
このオウムは彼の妻によって行われた罪を見破っていて
彼が彼の家に帰った時に彼に話すのでした。
彼女がまた別の情夫を連れて来たことを。
それでその時不和になり始めていました。
その家の主と彼の妻の仲がです。
ある日夫は楽しく過ごすために出かけ、
一日か二日の旅に行っていました。
長らく会っていなかった、
いつまた彼が会えるのかもわからなかった友人達のところに。
夫が行ってしまうと
次に愛人が夫の後差し向けられ
浮かれた音楽を生じさせました。(性交しました。)
オウムのちょうど目の前で。
  その婦人、彼女は一時考えました。
鳥を騙すことを。
そして至極簡単に彼女に考えがうかびました。
どうやってその計略を作り出すことができたのか。
彼女には彼女の意のままになる下男がいて、
いつも彼女のないしょごとを知っていました。
彼女は彼に無理やり梯子を高いところに掛けさせました。
それから彼は梯子の上へと登って行きました。
彼は持って来ていた耳型の一つの取っ手と注ぎ口の付いた水差しを
天井の上に置き
彼は天井に一つの穴をあけました。
彼は降りてから火のついている石炭一つを担ぎあげました。
石炭とともにトーチも。
何をなすべきか夫人が彼に命令した通りに。
彼らが一緒に寝床にいた時に
夫人と彼女の不義の相手、
夫人の召使いの男は準備万端ととのっていました。
彼は覗き込み明かりを見ました。
それで直ちに彼のトリックを開始しました。
Page62, 2176-2213
真っ先に鳥かごの上から水を注ぎました。
彼は二回ないし三回水を注いでから
彼は他の巧妙なトリックをしました。
大きく膨らませた空気袋を突き刺して穴をあけました。
そうして彼らは大きな破裂音(雷鳴)を発生させたのでした。
彼は真っ赤な石炭一つでトーチに火をつけました。
それからそれを穴の中に入れました。
  夫人はベッドに座っていましたが
彼女はまるで怖がっていたようでした。
しかししきりに言いました。「ベネディクト!
この水、破裂音、火は一体何なの?」
彼女の姦淫者はベッドで言いました。
「じっと寝ているんだ、そしてこわがるな。
これは電光、雷と雨だよ。−
また貴方のベッドに横たわりなさい。」
オウムは立ったままで見て聞きました。
それだけの術策がどういう結果になったのか、
つまり彼の言った事は本当だとオウムは思いました。
そして翼の下に嘴を横たえて
夜明けまで一息つきました。
彼女の姦通者は去りました。
  夫は帰宅すると
鳥籠の方へ行きました。
そして鳥にどんな具合かと尋ねました。
するとオウムは答えました。「私は昨夜見てからずっと
私は非常に怯えていました。」
家の主は彼のオウムに言いました。
「私に話しなさい、君に何かが起きたの」
「御主人様」彼女は言いました。「御主人様が行ってしまうと
直ちに奥様のもとへ彼女の愛人がやって来て
彼は御主人様の出発後すぐに呼び入れられたのです。
それから以前のように行ないました。
しかしその夜は
そこに驚くべき出来事が彼らに降りかかりました。
雨が降り近くで電光がきらめき雷が鳴りました。
全く私たちはとても恐怖に駆られました。」
夫は彼の妻のところへ行き、
Page63, 2214-2250
彼女の生活のことで厳しくとがめました。
彼の留守中に彼女がやらかしたことについて。
そして彼の妻を罪深き卑劣漢呼ばわりしました。
「嗚呼、貴方」彼女は言いました。
「何故こんな生活を送っているのかしら?
貴方は貴方のオウムを教えるのが大好きでした。
でも実際は彼女は嘘をついています。神の慈悲に誓って!」
「マダム。」彼は言いました。「私の首にかけて、
これからお前の嘘が立証されるだろう。
私が出かけている間に彼がここにいて
私の部屋でお前は一緒に寝ていた。
さらにその夜天候は荒れて
絶えず稲妻が光り雷が鳴り雨が降りしきっていた。
終夜、朝まで
お前の姦通者はそのベットに横になった!」
「嗚呼、貴方。」彼女は嘆息したけれども大胆でした。
「それは嘘です。オウムがしゃべったこと、
彼女はうそをついたのです、万物を創世した神かけて。
雨は全く降らなかったし、雷も鳴らなかったし稲妻も光りませんでした。
貴方が町から出て行った時からずっと。
それに隣人達によって私の貴方に言っていることは真実だとわかるでしょう。」
「確かに。」と夫は言いました。
「もし私にできるならやってみよう。
直ちに全くのうそであることを証明せよ。」
  彼は隣人達一人一人を呼び出しました。
彼ら全員が来たところで
彼ら皆が証言を求められました。
雨か雷かまたは稲妻か
その週の毎日の天候はいかなるものであったかを。
その時隣人達は直ちに答えました。
「そんな天気では 雨、雷、稲妻のどれでもありませんでした。
今週中、もう何日かは。」
それで町人は大変後悔しました。
彼が彼の妻を中傷したことを。
そして直ちに癇癪持ちの早まった行為をしてしまったのです。
まさにその激怒が原因で
彼は籠の中のオウムを殺害しました。
Page64, 2251-2288
  「こうして町人は彼の妻のために
彼の命のような彼の優良な鳥を殺しました。
そう陛下も、皇帝陛下、
陛下自らが名誉を傷つけようとなさいます。
陛下の奥方の言葉を聞き入れて
陛下の息子の命を奪うということが。」
皇帝は言いました。「カトン師、
王子を愛しておるのだから、聖シモンに誓って
彼の目に目隠しをするのは余りにも罪に汚れたことであった。
今日私の息子を殺さない。」
  その時皇后は皇帝が言うのを聞きました。
王子の命は助けてやると。
朝まで一晩中。
それから彼女は深い悲しみを装いました。
夜になるまで一日中。
「嗚呼!」 しばしば苦しみの度合いが増しました。
彼らが共に寝室に入った時
夫人は彼女の感情を示しました。
皇帝は申しました。「いかがでしょう?
夫人よ、貴女はどうしたのですか?」
「陛下。」彼女は答えました。「何もよくありません。
本当に、すんでのことに陛下のせいで私は気も狂うばかりでした。」
陛下はまさに貴方自身を傷つけようとしているところです。
というのは陛下は私の助言をどうしても信じないのですから。
一体全体よい助言はありません。
陛下の七人の似非学者達の忠言以外には。
故に私は警告致します、疑いなく、
陛下は彼らをかえってますます愛そうとして
貴方の名誉を失うでしょう。
ヘロデ王がそうであったように
ヘロデ王は彼らの利益に反する忠言を信じました。
七人の賢者達の、陛下と同様に。」
皇帝は申しました。「神の教会に誓って
その事例を妃は私に語らねばならぬ。」
「喜んで。」彼女は答えました。
「それがより良いことならば。」
直ちに彼女は物語始めました。
王子を殺害しようと企んで。」
卒論バージョン、SOUTHERN VERSIONと比較


十五編の枠組み物語集 目次


A Japanese translation  和訳

11. 第6夜 王妃の第11物語   賢者

a English translation (英訳)


Page65, 2289-2321

 王妃は話しました。「一人の皇帝がいました。
大いなる名誉を賜った人でありながらも
七人の賢者を従えていました。

[・・・・・・・・原文空白箇所・・・・・]

[王の思い付きかはたまた当時のローマ法の慣行かは定かでないが]
ある習慣を取り入れて
それが多大な害をなす悪政となりました。
夜何か夢を見た者は誰でも
ある朝その日が晴れ渡った時。

[・・・・・原文空白箇所・・・・・・・・]

高価な贈り物を持って行き見た夢を話せば
それに対して学者たちは彼らに告げることになっていました。
吉凶の夢判断を。
それで彼らはその不正な利益のために富を手に入れ、
人々を迷信的信仰という間違った方向に導きました。
そして皇帝はその財貨のために
罪を犯している状態の賢人達を支え、
すべて彼らの思い通りの判断にまかせましたから
事態はとうとう手遅れとなりました。
  皇帝は病気にかかりました。
極めて奇妙な。
皇帝がどんな事があろうとも
ローマの外へ遊びに行きたいと思い立った或る日のことでした。
彼が都市の外側に出た時、
すぐ彼の視力が奪われて失明しました。
だから彼は大変困ったことになったと
幾多の当惑に陥り
彼の学者たちに忠告を求め、
彼らの書物で原因を調べるよう命令しました。
学者達の知識をもって病名を調べつくしたところで、
皇帝の病気を治そうとして
彼らは誰一人
口頭で彼には何も告げることができませんでした。
どうやって皇帝は健康を回復し得るのでしょか。
彼の身体の中で何事かが起こっている危険な状態から。
  しまいに学者達が聞き及んだのは
Page66, 2322-2359
賢く聡明な人の存在でした。
その名をマーリンといい、
多くの医術を学んでいました。
それ故七賢人らは直ちに彼を探しに行きマーリンを発見して
彼は学者達に伴って皇帝の面前に来ました。
マーリンはすぐに恭しく
皇帝に敬意を表しました。
掻い摘んで話すと
皇帝はこれ以上学者達の返答の日を待てませんでした。
マーリンが彼の病状について答えなければなりません。
どんな種類の病気で容態はどうなのか。
「陛下。」優れたマーリンは申しました。
「陛下の話された事態につきましては、
陛下のお部屋へ一緒に参りましてから
論証によって私が陛下に聞かせましょう。
何故また何が原因で
陛下の目が見えなくなったのかを。
  皇帝とマーリンは直ちに
皇帝の部屋へと歩き始めました。
彼らが共に私室に入ると
マーリンは彼の思う所をつつまず述べて
言うことには、「皇帝陛下、確かに
陛下のベッドの下には一つの大釜があって
それが日夜沸騰しています。
それで陛下の視力が奪われたのです。
そしてこのままでは陛下のお命さえも失われかねません。
だから如何なる治療を受けてもよくなりません。
もし私を信じて下さらないのならば
陛下のベッドを移動して見てごらんなさい。」
ベッドはすぐに移されましたが、
もっと時間がかかりました。
大釜が発見されるまでには。
それは地中深くにありました。
皇帝はようやく見えるところまで入って行きました。
大釜の波が沸き立っているのを。
それから間もなくわかりました。
マーリンが忠実で相当な知識を備えていることを。
そして言いました。「マーリン、君への愛によって、
Page67, 2360-2396
これはなんと驚嘆すべきことだろう。」
「陛下。」マーリンは答えました。「確かに。
私は陛下にどういうことなのか申し上げます。
この七つの波は、
陛下と国政を共にする七人の悪魔たち
つまり陛下の七人の学者達を表してます。
彼らは陛下の気に入るよう巧みに悪事へと誘導し、
彼らは財貨を持てる者です。
陛下よりも、皇帝陛下、
その渦中、陛下が彼らに力を貸しているので
神はその罪故に怒り煮えくり返っているところです。
「マーリンマスター。」皇帝は言いました。
「我々はその財宝に関して突き止めることができないだろうか。
マーリンの助言によって、遅かれ早かれ、
その七つの波が引いて減少するように。」
「はい、陛下。」マーリンは答えました。
「陛下なら恐らくそれを首尾よくできますとも。
ホールにいる陛下の七人の学者の中で
最年長者を呼びにやって
彼の首を打ち落として下さい。
そうすれば彼が死んだならじきに
陛下は波の勢いが減少するのを見るでしょう。
大釜の最も大きく振動している要素です。」
皇帝は時間がかかりませんでした。
最年長の師に有罪の評決が下され
マーリンの忠告を実行しました。
家来に老師の首を切り落とさせて
直ちに大釜のところへ行ってみますと
その時師の波はなくなっていました。
  皇帝は申しました。「聖マルタンにかけて、
私は忠誠をマーリンマスターに認めます。
たとえその男がどんなことを言おうとも
私は貴方の忠告通りに実行しよう。」
マーリンは言いました。「陛下、私を成功させたまわんことを。
それには陛下が陛下の学者達を殺害しなければなりません。
もし私が勧めましたように彼らを葬り去らないと
陛下は決して両目で見えるようにならないでしょう。
Page, 2397-2434
ローマの町の彼方に、確かに、
彼ら数名が別れを告げることとなります。
皇帝は申しました。「繁栄あれかし。
私の顧問として生活を送る者は誰もおりません。」
皇帝は直ちに彼の拷問係を呼び出しました。
そして学者達めいめいの首をはねさせました。
それから大釜の所へ行くとその時
そこでは噴出の波紋は跡形もなく消えていました。
彼ら全員が殺された
その後で大釜は除去されました。
  マーリンは皇帝に言いました。
「陛下、信義を重んじるナイトをお供とし、
馬に飛び乗って旅に出ます。
ローマから1日か2日の行程で。
さらに間を置かずに言いました。
陛下もこれから城壁の外を見物するのはいかがでしょう。」
皇帝はもうそれ以上迷ってはいられませんでした。
彼は馬に乗ろうと素早く身体を動かし、
そして彼らはそれぞれの馬に跳び乗り、
直ちに都市の周囲へ出かけました。
皇帝は城壁門の外側に着いたけれども
マーリンが馬から降りる時までには
ずいぶん長くかっかったように思われました。
王の偉大な力に跪いて感謝するために。
皇帝の視力は良くなっていました。
その時からマーリンは皇帝の相談役になる光栄に浴し、
皇帝と共に生きたということです。
  「お気を付けて下さい、陛下。」皇妃は言いました。
何という悪人でしょうか。
七人の学者達はほとんど目的を完遂したも同然でした。
マーリンの忠告に留意してなかったら。
天に召します全能の神にかけて
このことは陛下の七人の学者達に匹敵します。
独力でおやりなさい、でないともっと悪化しますわよ。
もし陛下が信ずれば陛下は呪いをかけられるでしょう。」
皇帝が申しました。「神の恩寵にかけて
彼はもう決して私を悩ますまい。
このすべての悲しみの原因は彼です。
確かに明日彼を死なせよう。」
Page69, 2435-2466
  昼が来て夜が去りました。
皇帝は直ちに起床しました。
これ以上延ばしてはならないー
すぐに彼の息子は前方に連れて来られ、
彼を処刑する場所に引っ立てました。
そこでは沢山の民衆が目から涙を流していました。
子供の王子が引っ張られながら
全能の神に祈願したちょうどその時でした。
第6番目の師はつい今しがた来たのです。
イエスと呼ばれている師は、
直ちに言いました。「皇帝陛下、
確かに陛下のなさることは名誉とはほど遠いとしか思えません。
女の言葉で表した
そんな奴は殺してしまえ、
陛下の息子を殺害せねばというような
また彼は陛下よりも長生きするという繰り言です。
もし陛下が彼に権威ある言葉を述べて彼が命を失うとしたら
陛下の奥様の物語のために。
同じことが陛下に降りかかるにちがいありません。
高い地位に就きその権限を行使したナイトのように。
彼は彼の妻に対して悲しみのあまり死んでしまいました。
彼女は小刀で怪我をしただけでした。
皇帝は申しました。「教会の鐘にかけて、
その物語を私に話してくれたまえ。」
「誓って。」イエス師は言いました。
陛下には今から私の言葉をお聞かせします。
しかし、陛下のご子息を連れ戻すメッセージをお願いします。
王子が裁判を受けることができるように。」
皇帝は直ちに命令しました。
王子の後を追って行くようにと。
その時そこにいた大勢の人々の表情は安堵のほほえみに変わり、
それからイエス師は彼の物語を始めました。
卒論バージョン、SOUTHERN VERSIONと比較


十五編の枠組み物語集 目次

2013/12/21 Izumi
a Japanese translation  和訳

12. 金曜日 6番目の師イエスの第12物語 寡婦

 

a English translation(英訳)


Page70, 2467-2500

  イエス師は言いました。「皇帝陛下、確かに
それは嘘ではなく真実です。
一人のナイトが居りまして裕福な上級役人シェリフ(英史では町や地方の長官や荘園の農奴の監督者) である
そのナイトは彼の妻を悲しませるのを好みませんでした。
彼はある日彼の妻のそばに座り
小刀を彼の手に持っていました。
手短に言えば
リッチなシェリフ夫妻が陥ったような異性愛の戯れ
少し曲がった小刀をもて遊んでいた時、
シェリフが彼の妻を傷つけてしまったことからでした。
そして彼自身にあまりにも悲しみを感じたせいで
翌朝彼は死んでしまいました。
彼の死は自殺したと同様の罪とみなされ
聖職者達はどうしても彼を教会墓地(churchyard)に埋葬しようとはしませんでした。
彼は五体満足を埋められました。
町はずれの小聖堂のお墓に。
  彼が地中に投入されてから
彼の妻はその場所から帰ろうとしませんでした。
けれども浮世の楽しみのためではないと言いました。
誰も別々に家に帰るべきではありません。
そこにいた彼女の友人達の中には
彼女に動揺しないよう説得する者がいました。
簡単に言うとそれは無益な試みでした。
誰もが彼女の心を変えることはできませんでした。
きっと彼女はそこにいようとしたのですが、
彼女を愛する彼らと共に。
そこにいた彼らの一人が言いました。
「さあここにいる我々すべてもう行きましょう。
彼女が望む限りは彼女をそのままにして離れましょう。

[・・・原文空白箇所・・・・]

そうすればこの痛みの激しさが消え去った時、
彼女はひとりで帰宅するでしょう。確かに。」
彼女は一人の召使を衣服を取りに行かせました。
その後墓(grave: 執政長官であった夫を埋葬した墓)のそばに彼女が祈祷するための
侘び住居を造りました。
二言三言で話すと、
Page71, 2501-2537
人は一人でいるべきものではないアウトサイドタウンに彼女は一人きりで住むのでした。
夜が来て昼が去りました。
彼女は直ちに火を十分焚き
そのそばに腰かけました。
寒い冬の時期でしたから。
彼女は泣いて両手をもみ絞りました。

[・・・原文空白箇所・・・・]

  彼女の礼拝堂からほんの少ししか離れていない所で
若いナイトはこのような状態でした。
教会に隣接する墓地(graveyard) のそばに頑丈な絞首台がありました。
三人の盗人が絞首刑を科せられていました。
彼の土地に対する彼の地代は、
罪人の番を引き受け
ナイトの全力を尽くして彼らを保持することでした。
最初の晩に誰も三人の盗人を盗まないようにするために。
たとえそのナイトが若くて勇敢だったとしても
彼は非常に寒けがしました。
すると礼拝堂に彼は炉火の明かりを見たので
そちらの方へ一直線に馬で進みました。
彼は馬から降りると
礼拝堂に入って行きました。
そして婦人に直ちに彼は挨拶をしてから
彼は火の近くに座って
申しました。「婦人よ、失礼をお許しいただき
ほんの少しの間私を暖まらせて下さい。私は去らねばなりません。」
婦人はその時言いました。「はい、
「サー、どうぞぜひ、
もしも貴方が他に危害を加えようと思っていないのならば
座って暖まる以外に。」
正装したナイトが
その火に当たっていた時
彼が考えていたのは最愛の人のことでした。
それでいながら彼には妻がなかったので
彼はすぐに女性に求愛し始めました。
そうすると彼女の心は甘んじて受け入れ始めた。
彼女は彼の姿形を見て十分に知っていましたが、
彼がナイトであることがはっきりわかると
その婦人はすぐに
Page72,2538-2575
その男に対して好意を持つようになりました。
真夜中になるまで
婦人は仰向けに
ナイトは上に寝ていました。
このようにして彼は婦人の愛を得ました。
  ナイトは彼の馬に跳び乗りました。
盗賊が完璧に吊るされているかどうか警戒に行くために。
彼が望みを遂げようとして
彼女を誘惑しようとしていた間に
盗人のひとりが絞首台から消え失せてしまいました。
礼拝堂へと彼は急いで馬を疾駆させました。
そして婦人に彼の苦痛を訴えて
言いました。「婦人よ、ああ悲しいかな、
私の見張っていたひとりの盗人がいないのです。
だから私はとてもびくびくしています。
私の所有地が失われはしないかと!」
「サー。」婦人はその時答えました。
「その結果悲しまないで下さい。
貴方は貴方の土地の没収を嘆かなくてもよいのです。
貴方の土地が失われることはありません。
私たちは貴女のシェリフ家の墓に行って、
直ちに死骸を掘り出し
彼の首を誰かが占めていた位置に吊るすのです。
他の誰かの死体と寸分たがわぬように。
「婦人よ。」その後彼は言いました。
「四方八方にああ悲しいかな
ここに泥棒が見つかっていました。
その二人のうちのひとりに大きな傷痕がありました。
彼は傷を負いもはや
その死体がなくなっています。
それにもし彼が見つかっても
かれにそのような傷がなかったならば、
その時私の土地は失われ,
私はそのために殺されることでしょう。
「サー。」彼女は言いました。「泣き言を並べるのはよしなさい。
さあ貴方は剣も短刀も持っているのだから
剣か短刀を抜き
Page73, 2576-2610
彼に同じ傷痕をつけなさい。」
  「マダム。」彼は言いました。「正確、性格に、
むしろ私に全くの災いがあるでしょう。
そんな覚悟ができる前に、
死んだ男を突き刺す位なら。」
「サー。」婦人は言いました。「それをすべて

[・・・・・原文空白箇所・・・・

・・・・・・]

そして彼女のマント(ローブ)から短刀を引き抜きました。
それは鋭く磨き仕上げられたよく切れる短刀でした。
それから彼の頭を切って一つの傷をつけると
すぐに彼女の短刀を立ち上がらせ
言いました。「サー、私たちはうまくいきます。」
「ダム。」彼は言いました。「正確には、
私は殺されるのかもしれません。
彼の顔は私の記憶と一致しないのです。
彼の二本の前歯が。」
「サー。」その時彼女は言いました。「私の頭によって
そのために良い忠告に従いなさい。
彼は彼のような肉体的特徴から同一であるとみなしうるでしょう。
叩いて二三本抜き取りなさい。
「ダム。」彼は言いました。「ヨハネによりて
私は彼に殴りかかり彼の歯の一本さえ砕けません。」
「サアー。」彼女は言いました。「聖マリーによりて
貴方がそうしないのならその場合には私がやります。
彼女は石を一つ彼女の手に掴み
直ちに歯を叩いて二本抜き取りました。
「サー。」彼女は言いました。「これで彼の顔を作り変えましょう。
急いで、私たちは首尾よくいったのです。
彼は盗まれた一人の泥棒になぞらえて描き上げられました。
夜が明け白む前に。」
彼らは直ちに死骸を抱え
絞首台へと歩き始めました。
そして彼を同じ位置に吊るしました。
ちょうどそこでいまひとりが死んだのです。
  「御覧あれ、陛下」イエス師は申しました。
「遺憾なことでした。」
Page74, 2611-2644
「かくのごとく彼が彼の妻によって無残な姿にされたということは。
彼女が愛を得るために彼は一命を失ったのでしょうか?
このように陛下も、サー・エンペラー、
確かに陛下の名誉を傷つけられることでしょう。
そして陛下は陛下の命のような王子を成敗なさろうとしています。
陛下の妃の物語を信じたがために。
皇帝はイエス師に申しました。
「その事例は私の身に及ぶまい。
たとえいつ私が私の頭を傷つけても
  今日私の息子が死んでしまわぬようにせよ。」
皇妃、彼女がそのことを知らされた時、
彼女には何ができるかわかりませんでした。
彼女はたいそう嘆きあんまり怒っていたので
いかなる娯楽も彼女を喜ばせることができませんでした。
彼女が晩にベッドルームに来ると
彼女は深いため息をついて
言いました。「嗚呼、試練の時、
絶え間なく私は夫を引きつけておかなければならない。」
皇帝は横になって聞き
何故彼女がそのように振る舞ったのかと尋ねました。
皇妃は答えました。「願わくば生き長らえますように。
概していえばそれは陛下のために。
私は陛下の決心がつきかねているのを見ます。このように振る舞うのは陛下です。
陛下の学者たちによって陛下は殺されるでしょう。
彼らは彼らの作り事で陛下を騙そうとしています。
学者ジェネヴァーがしたように。
彼は巧妙な手腕と騒音で
王達と彼らの軍隊を扇動して滅亡させました。」
皇帝は申しました。「聖コラスに誓って
貴方はその事変を語りなさい。
それはこれまでに聞いたうちで最も不思議なことです。
私はそれがどのように起こったのか聞きたいと思います。」
皇妃は彼女の物語を話し始めました。
王子を殺害しようと企んで。


卒論バージョン、SOUTHERN VERSIONと比較


十五編の枠組み物語集 目次


a Japanese translation  和訳

13. 第7夜 王妃の第13物語 ローマ

a English translation(英訳)


Page75, 2645-2678

  皇后は、貴方が聞きますように、
彼女の物語をこのように始めました。
そして言いました。「三人の異教を信じる王達、彼らは、
時々ローマを包囲攻撃しよう侵攻して、
教皇を彼らは殺してしまったのですが。
それで彼らの法律に従ってローマを統治しました。
そして町は制圧されて、
キリスト教徒を滅ぼしました。
異教徒達は戦闘においてかなり畏怖の念を与え、
長い間町を包囲したのです。
七人の学者がローマに居りまして、
異教徒達の策略の真相を見抜く力になっていました。
昼も夜も、
その都市は間違いなく守られました。
彼らのうちの一人は年を取っていましたが、
彼は演説に自信があり、
そこで提案しました。「我々はこの都市にいる
高徳な七人の学者です。
もしもめいめいがすべからく奮起すれば各自は、
危害からこの都市を明記されないある日にも守ることができよう。
さあ皆さん、それぞれができる事をしましょう。
しかしながら私は老人故に、
私を最後の日にして下されたし。
ならば私のできる事をするように企ててみせましょう。」
老人は彼らの忠誠心は不変だとみなしていました。
一体いかにして彼は最後に、
弁明するのでありましょうか。
異教を信じる王者達を身震いさせる何かを。
そしてついに解き明かしました。
彼らすべてを脅かす計略を。
それは彼の思考力のすべてであり、
その策は驚くほどうまくいったのでした。
  彼の日が来た時
彼の忠告は従われました。
Page76, 2679-2715
彼は全部口頭で指揮しました。
彼らはできるだけ完全に武装しました。
この都市における万事は、
老人が下した命令どおりに行われました。
そして彼自身は直ちにやぐらの中によじ登り、
素晴らしい装身具を着飾りました。
そのすべてが火のようにかっかと燃え輝きました。
もう一方の手にも剣をつかみました。
ロマンス語で書かれた本に記録されているように。
それから向こう側の方に向きを変えました。
そこではサラセン人達が彼らの戦士を広い戦闘配置につかせていました。
そしてすぐ武器との交戦が始まりました。
全世界が粉々に壊れてしまうかのようでした。

[原文空白箇所]

彼が投じたトリックの火によって、
等身大の彼の両剣のちょうど中間に、
まるで彼がそれを大挙した軍に振り回しているように。
  サラセン人達は注意してじっと見ていました。
すると多くの者が非常に怯えました。
彼らのうちで一人もいませんでしたから。
それが何なのか説明できる人が。
その場にいた異教を信じる王達は、
軍勢がそこに来たことを大変遺憾に思いました。
彼ら皆大そう驚いたからです。
彼らが負傷した一場面を話した時でした。
その時めいめいが他の人に聞き合わせました。
事態の何がどこでたまたまそうなってしまったのかと。
王の一人は老人でした。
そこで彼の解説は次のように始まりました。
「諸侯よ、貴方がたはお聞き下さるように。
私が考えることそれは、
キリスト教徒達は何の力もありません。
我らと戦うために、
しかし彼らの神は強大な力を持ち、
天から地上に降りたのです。
確かにあれは神です。
つまり私は我々が逃げ去ることを勧めます。
Page77, 2716-2753
確実に彼が降りて来たのです。
彼はマホメット卿を殺すでしょう。
そしてわれらお互いの神々も。
ですから誰も我々が生きているとは思えません。
王がこのように話した時、
彼らの中に一人もそれほど勇敢な者はいませんでした。
まだこれ以上長い間光景に耐える勇気のある者。
それで直ちに逃走方向に向きを変えました。
ローマの民はその有様を見た時、
サラセン人達が進路を変えて逃げて行く様子、
ローマカトリック教徒はそれぞれ皆自ら戦場に出て行きました。
彼らは皆馬に乗ることができるか或いは徒歩でした。
少しの間で、
全サラセン軍は打ち負かされました。
  この学者ジュニューアは、
彼の意志と彼の仕業、
彼の音響によって退散させたのです。
三人の王と彼らの軍隊を。
このように陛下の不信な学者達は、
彼らの狡猾なやり方で陛下を殺し、
陛下は陛下の帝国を失うでしょう。
そして陛下の息子が領主となりサーとなります。
このようにして陛下のために七賢人達の助言が綿密に作り上げられるのです。
陛下が消滅するよう導くために。」
皇帝はいいました。「願わくは命にかけて。
彼は皇帝にはならぬ。
もはや誰にも彼を守らせないであろう。
きっと彼は明日死んでしまっていることだろう。」
その時皇帝は彼女の意のままになっていたのです。
彼らは寝つき静かに横たわりました。
  翌日彼はそれを忘れてしまってはいませんでした。
王子は町から連れてよこされ、
死へと彼は導かれました。
皇后が喜んでいた時です。
第七番目の師が馬に乗って急いでやって来ました。
彼の生命を維持するために。
その師はマルシアスと呼ばれており、
皇帝に言いました。
Page78, 2754-2786
「陛下、正義の皇帝、
陛下のご振る舞いは立派とは申せません。
陛下はよこしまな助言をお信じになられています、全く、
それが陛下に間違った行動をさせるのです。
それ故もしも陛下の御子息が死刑に処され、
陛下の奥方の助言によって殺すのならば、
十字架刑で受難した神は、
御身に降りかかるとそう思います。
ある貴族達自身に生じたような事件が。陛下がより信じているからには。
貴族の妻の語る虚偽を
彼ら自身で見聞した事よりも。
それ故に彼はひどい目に会いました。
皇帝は言いました。「聖ジュリュアスに誓って
私は汝がつかんだその情勢を話させよう。
マルシアスは皇帝に申しました。
もはや一つの言葉ではなく、救世主に誓って
陛下は陛下の悲嘆に暮れた御子息を殺すのです。
が、それなら彼を明日まで延命させてください。
皇帝は言いました。「太陽と月によって、
私がすべき最善のことが分かりません。
師は私の息子を救おうとしているところです。
しかしもし私の妻が言っていることが本当ならば、
確かに師よ、お前は間違っていた。
この世に生きて座り続けているべきか。」
「陛下、陛下。」マルシアスは言いました。
それは本当ではありません。イエスに誓って。
陛下はすぐ知ることになるでしょう。
明日、聖務日課の賛課と一時課において。」
皇帝は直ちに命じました。
王子を求めるようにと。
その時マルシアスを嬉しがらせ、
彼の物語は次のように始まりました。
直ちに皇帝のために。


卒論バージョン、SOUTHERN VERSIONと比較


十五編の枠組み物語集 目次


a Japanese translation  和訳

14. 土曜日 7番目の師マルシアスの第14物語  閉じ込められた妻

a English translation(英訳)


Page79, 2787-2821  
マルシアスは言いました。「ハンガリーに一人のナイトが居りました。」
そして前日夢を見ました。
彼のすぐ近くに一人の貴婦人が横たわっていました。
しかしそれは不思議な出来事でした。
彼はその貴婦人がどこの国の人なのか決して知ることができませんでした。
彼が起きた時にはあまりにも確たる
彼の愛情がそのレディーに向けられました。 
彼が短期間のうちにひそかに考えたのは
彼は彼女に会いに行き、彼はその方法を知り得るということでした。
ところで一方その貴婦人は彼女自身もその夜
ナイトと全く同じ夢を見ていました。
  ナイトは直ちに武装して馬に乗りました。
そして命がけで出かけました。
彼はどこで彼女を見出し得るのかを知るために。
彼が彼の夢で見たその貴婦人を。
彼は馬に乗って彼の旅を三週間以上続けました。
しかし幾度も悲嘆に暮れました。
そしてまた前方へ道をたどりました。
その間に彼はイタリアのアプリア国に到着しました。
彼がその国を馬で進んだ時、
ある日一つの町を発見しました。
その町には城が一つありましたが、
それは行くのが困難な城でした。
その城の貴族は、
大変美しい宝石を所有していました。
最も美しい女を妻として持っていました。
古来生あるものの中で。
そして夫である貴族は嫉妬していました。
それで一つの塔に彼女の家を造り、
その中に人間が住んではいけませんでした。
彼の妻とメイド以外は。
彼が裏切りに用心していたからです。
彼は鍵を彼自身の肌身はなさず持っていました。
だからもう再びドアは開かれませんでした。
彼が彼女の居室へ来た時を除いて。

Page80, 2822-2857

  その夜夢の中で、
若々しい(バラ色の)顔色をした女の夢を見たナイトは、
馬に乗って町を通り抜けた時
しばらくの間ぶらぶら歩きじっと待ちました。
塔から至極近い所で。
その塔の中には高貴な婦人がいました。
彼女はナイトの夢を見ていました。
彼女が一晩中寝ていたベッドで。
ナイトは頭上高くに彼の目を向けました。
すると窓に彼は婦人が見えました。
それから彼女の姿を見ると彼は彼女の思いがわかりました。
彼が探し当てた婦人でした。
それでその婦人と恋に落ちました。
彼女が心から愛していたナイトでした。
彼らは両方とも元気づけられました。
各自はお互いを見つけたのでした。
  ナイトは町の中へ入って。
そして宿を見つけてから少しばかり飲んだり食べたりしました。

[・・・・原文空白箇所 ・・・・]

彼は宿屋の亭主を相談に入れて、
言いました。「これは誰の城ですか、
その城は塔がついているし狭間を完備してあります。」
「お客様。」宿屋の亭主は言いました。「聖シモンによりて、
この町の領主様のものです。
きわめていい主です、確か、
それなのに彼はとても困っています。
この国にいる一人のナイトが
絶え間なく彼に戦争をしかけます。
しかも二年以上ずっと戦争をしているのです。
だからそれが彼にひどい苦痛を与えています。
彼はそのナイトの面前では雄々しく振る舞っていますが。
四六時中。
 その日が来た時の朝、
彼は城に向かって道をたどりました。
それから彼はその貴族にすぐ会い、
彼はとても礼儀正しく挨拶をしてから
言いました。「閣下よ、私は参りました。
Page81, 2858-2895
閣下が始めた戦争のために、
閣下の戦争をお助けし、
閣下の戦争を終わらせるために参りました。
プイル国の貴族は言いました。「生きるために、
貴方は私にとって大歓迎です。」
手短に話してから
貴族はナイトを彼のもとで滞在させました。
その上ナイトは戦いに練達した武士でしかも利口でした。
だからこの貴族の敵を残らず征服してしまいました。
貴族は彼を彼の命と同じほど愛しました。
彼の一切の所有物とさらに彼の妻も
彼はあらゆる財産の管理をナイトに委託したのです。
そしてそのハンガリーのナイトを貴族の全領地の執事にしました。
  ある日のこと彼は英気を養いに行きました。
塔の下へと進みました。
婦人は高所で外を見渡しました。
すると彼女は塔の前にいるナイトを見ました。
そして直ちに彼が誰なのかがわかりました。
それは彼女が会いたいととても希求していたナイトでした。
そのナイトは彼の視線を投げ上げました。
それほど上階に座っている婦人に。
その婦人はあえて口をききませんでしたが、
彼女はトリックに余念がありませんでした。
彼女の部屋には
美しく長く生い茂った藺(トウシンソウ)が沢山ありました。
一本一本あれこれ平均して
彼女は他のすべての藺(イグサ)を置いて
わずかの間に組みひもを作りました。
一方の端が地面に触れ、
他方の端を彼女は空中で握っていました。
するとナイトは彼女の方を見てそのイグサの鎖を見ました。
しかるに内省的に彼はよく承知していました。
なぜこのような巧妙な仕掛けが編んで作られたのかを。
用心深く冷静なナイトは、
貴族の意思のすべてを試しました。
そしてどの場所がいいかと考え、
そこに彼は一つの塔を建てようと思いました。
大きな塔のすぐ近くに、
Page82, 2896-2933
貴族の財宝を入れておくためです。
計略によって彼は婦人を妻にしようと考えました。
その婦人は塔のすみかに閉じ込められていました。
貴族は言いました。「遅滞なく
それが建てられるよう急ぎなさい。」
  石のように静かなある日、、
ナイトは直ちに石工を呼びました。
彼らは手筈を決めて解明しなければなりませんでした。
一つの通路を精巧に造るために。
一つの塔から出てもう一方の塔への行き方。
そして一人の石工とその兄は、
直ちに大仕事に着手しました。
彼の家を建てる画策それは、
彼女と話し合うためでした。
塔に閉じ込められた婦人。
石工たちのうちの一人は親方でした。
それで塔と通路の構築物があまりに巧妙に造られたので
その婦人はナイトのところへ来ることができました。
昼でも夜でも彼が欲する時に
誰にも気づかれないままに
婦人彼女自身と彼自身以外は。
大変如才なく遂行されたので、
貴族はそれを感知しませんでした。
  ある日彼は孔を通って彼女の居る所へ来ました。
そして彼が別れを告げた時、
彼女は一つの指輪を指から抜いて、
ロマンス語で書かれた本が物語るところによれば
それを彼の指にはめました。
それから言いました。「最愛の人は貴方でした。」
それで私の閣下にそれを間違いなく見せて、
またそれを再び私に持って来て下さい。
彼は彼女の指環を彼の指にはめたままの状態で直ちに
彼女に別れを告げて孔を通って出て行く覚悟をしました。
晩餐会で彼が座っていた時でした。
貴族は指環に目を留めて
大変驚きました。
どうしてその指輪がそこに持ち込まれたのかと。
晩餐会の後彼は塔へと秘密の道をたどりました。
Page83, 2934-2971
だから婦人の元へナイトは速やかに来ました。
イタリア、アプリア国の貴族がナイトより先に塔へ向かったのにもかかわらず。
彼の家から婦人の居る塔まで抜ける秘密の入り口のおかげで、
貴族よりも前に彼女の部屋に来ることができたのです。
ナイトは彼女のスカートのひざを覆う部分に指輪を投げ与えました。
彼らを害から守るために。
それから彼女に別れを告げて彼の秘密の道へと行きました。
すると直ちに貴族が塔にやって来て
言いました。「ダム、お前の指輪どこにあるの?
私たちの初めに、
私がお前にあげた最初の贈り物のことさ?
その指輪を私に見せてくれませんか!」
「サー。」彼女は申しました。「貴方がそうおっしゃるのはもっともです。
私は今日それをはめていないのですから。
それに他の沢山の宝石。」
「ダム。」彼は言いました。「それらは構わないで!
私はたった一つの指環を見ます。」
彼女は彼女の小箱のところへ行き、
直ちにその指環を持って来ました。
それは鍵をかけたまま彼女の宝石や貴重品の小箱に入れられていました。
こうして彼女は彼女の夫の目をだましたのです。
  貴族が行ってしまうや否や
執事が直ちに入って来ました。
婦人は彼女が考えていたあらゆる状況を彼に話しました。
どんな風にして彼女の夫をだましたのかを。
そして言いました。「サー、恐れないで、
貴方の望みを遂げられるでしょう。
直ちに私は貴方に話しますから、
どういう風にどう行動してよいかを。
おっしゃるのです、貴方は貴方の国で、
有徳の人を一人殺してしまいましたと。
それ故に貴方は貴方の所有地を失ってしまい、
その上貴方は追放されることになったのです。
また貴方には一人の愛する妻がいると言いなさい。
貴方の妻でない一人の情人が、
その彼女がメッセージを届けに尋ねて来ました。
貴殿の相続が成立したからお帰り下さいという報知です。
すると彼は貴方に懇願するでしょう。
彼が貴方の情人に合わねばならないと。
そこで貴方は直ちに彼の望みを聞き入れてやるでしょう。
Page84, 2972-3009
そして私は身支度にとりかかります。
見分けがつかないほど他国の一揃いの衣装を着るのです。
私を見て彼が胸中で訝る時のために。
塔から降りれないはずの彼の妻であるところの私を見ている間に。
それから私たちは私たちの意志を持ってよいのです。
私たちが一緒に行くときに。
それ以前に彼は噂を聞かないでしょう。
私のも貴方のもどちらの噂も。
彼が信じるのはただ私が貴方の国から来た貴方の情人ということだけです。
  執事は言いました。「それは恐らくうまく行くはずがない。
彼の目は節穴ではなく貴方をちゃんと見るからです。
彼女を見るや否や
彼はすぐに貴方だということがわかります。」
「サー、彼女は言いました。「私の帽子に誓って
私の指環は私の要求を飲ませるのに役立つのです。
何故なら彼は広間でその指環が貴方の指にはまっているのを見て、
さらに彼はその指環を階上のこの部屋で見たのですから。
彼の思考のすべては次の事柄でしょう。
一つの指環がもう一つの指環と似ているように
一人の女性が別の人と似ているということは多くあります。
そこで背信の結び目が作られるでしょう。
この指環は彼が正気を失うために必ずや目をくらますものとなってくれるのです。
  執事はいそいそと去りました。
貴族の気を狂わすために。
それから貴族に自分は赦免されたと申し出ました。
また何故彼の情人が尋ねて来たのかというと
それはその知らせをもたらしに来てくれたからで、
彼は赦免によって彼の相続も成立し故郷に帰ることができると申しました。
そして彼の出立の手引きをしてほしいと貴族に頼みました。
彼の主君の貴族は大変仁愛深く、
「もし貴方の情人が来たら、
本当に、彼女をもてなします!
今晩は彼女を休ませてあげなさい。
明日彼女は私の客人です。」と言いました。
  次の日彼女は食事に来ました。
そこで貴族は彼女の手を取り、
彼のすぐ近くに腰かけさせました。
Page85, 3010-3046
彼女は貴族の食事のお相伴にあずかりました。
彼も彼のナイフで彼の肉を切り分けました。
それから座ると彼の妻を注視して
じっと考え込みました。
彼の妻なのか妻でないのかと。
彼が憂慮して座っていた時、
すぐに彼は指環のことを考えました。
そして同時に胸の中で思いました。
彼の妻は別の女性に似ている。
一つの指環がもう一つ別の指環に似ているように
一人の婦人はもうひとり別の女性に似ているのだ。
そうして静かに座って悦に入っていました。
かくして彼の妻は彼を錯乱させました。
食卓の上の食事が片付けられた時。
彼女は失神するふりをしました。
彼女は行ってしまっていたはずでしたから。
塔へと急ぎ
彼女は連れて行かれました。
彼女の夫はそれを知りませんでした。
  この国の貴族である彼はその記憶がなくなることはありませんでした。
彼女のことは片時も忘れませんでした。
彼が見た不思議なこと故に。
彼は高い塔の中へ行きました。
婦人のもとへ彼が来た時、
彼女は彼に彼女の腕を差し出しました。
彼は最も高い大枝に止まった鳥のように満足していました。
それに万事異常はないと警備を信じていたのです。
そして終夜彼女と共に眠りました。
晴れた日の朝まで。
  執事は彼の品物を悉く持って行かせ
それを海へ
一隻の立派な帆柱のある船の中に運搬しました。
その帆船はみな新品同然のものばかりで造られていました。
順風が吹いた時に出航するのです。
執事は彼の婦人を直ちに連れて来ました。
脱行
そして伯爵は彼に彼女を与えて結婚させてしまいました。
Page86, 3047-3083
それで彼女を旅に乗り出させることになったのです。
1マイルか2マイルの海へ。
トランペットやその他の楽器で
沢山の種類の楽曲が奏されました。
貴族は喜んで手を貸して興じました。
彼こそが彼自身の妻を運び去らせるのでした。
彼らはいとまごいをしてお互いに乗船して
親愛なる者がする挨拶のようにキスを交わしあいました。
船は水域を航行しました。
貴族は再び田園地帯に行きました。

[・・・・・原文空白箇所・・・・・]

塔へと彼は道をたどりました。
彼は外側も内側も探しました。
それでも塔の中には誰もいなかったので
今度はすぐに心配になりました。
彼の妻が
執事と一緒によそへ去ってしまったのではないかと。
それから彼は、ああと嘆きました。
彼が生まれてからこれまでにない悲しみ!
彼のうきうきした気分がすべて途方に暮れた時、
彼はすぐ塔から跳び降りました。
それで彼はその時彼の首の骨を折って死にました。
  こうしてその夫は自殺しました。
彼の妻の策略によって判断を狂わされたからでした。
「皇帝陛下。」 マルシアスは申しました。
「まさしくかくの如く
陛下の奥方も陛下を騙すでしょう。
それなのに陛下は彼女を信じるのです。
ただ単に彼女が陛下を操る手段としての物語なのに。
彼女は私の同僚一人一人を裏切ってきました。
さらに彼女は私に対してもというのも何ですが
明日の日限までに、
陛下の息子さんが憂き目を見るために。
確かに彼は明朝しゃべるでしょう。
陛下は間もなく知り抜くことと思います。
陛下のお子様かそれとも陛下の妃かそのお二人のどちらが邪悪であるかということを。」
皇帝はマルシアスに言いました。
「そのことについて私はイエスに誓った。
Page87, 3084-3121
人々が語り得ることよりも
私の息子が口頭で話すのを聞く方がよいのだが。
正道を見極めるために。
罪を犯したのは誰か、彼ら二人のどちらか。」
「陛下。」  マルシアスは申しました。「お静かに願います。
明日陛下は望みを遂げるでしょう。」
  夫人がこの発言を聞いた時、
彼女は大変悲しかったので
もはや話そうとはしませんでした。
彼女は一晩中嘆息していただけでした。
  翌朝六時の祈りで、
皇帝はその間考えました。
宮殿において大広間の外に
そこに彼は全員を召集させようと。
伯爵、男爵、一集団の中で最も身分が低いナイト達。
皇帝の正義の裁きを聞くためにー
彼の息子と彼の妻との間でどちらが
その一命を失うべきかどうか、
何故ならば皇帝は彼の宣誓でイエスに誓ったからです。
彼は好きか好きでないか、
彼は一刻の猶予もなく死ぬべきか、
あの日誰が有罪と判定されたのか。
彼らは裁判がなされようとしていることを知らされた時
王の臣民達は直ちに集まっていました。
そして即刻人々は皆急いで宮殿へ行きました。
王子を生かしておくために。
皇帝は王広間から外に出ると
自ら群集の間に座りました。
皇后は華麗に導かれて
彼の側に座りました。
  間もなく王子が召喚されました。
群集の前に来るように
王子は連れ出されると
多くの人が心から喜びました。
彼は父の前でひざまずきました。
それから「御慈悲を、愛のために!」と叫んでから
言いました。「父上、私は無罪です。
その事件で私は濡れ衣を着せられたのです。」
Page88, 3122-3133
確かに彼はただ
海で溺死したにすぎなかったのですが。
もし神のおかげがなかったならば、
その神様は彼を一つの岩に導き、
神の恩寵によって
彼は陸地を発見して到達しました。」
「確かに、息子よ。」 皇帝は言いました。
「私達にとって少しも誉れではなかった。
私達が十分論じる以外無理もなかったのだが。
それ故お前の物語を私に話すのを認めよう。」
そして彼らは各人が静かに座りました。
王子は彼の物語を始めました。


卒論バージョン、SOUTHERN VERSIONと比較


十五編の枠組み物語集 目次


a Japanese translation  和訳

15. 8日目 王子の第15物語    予言 

 

a English translation(英訳)


Page88, 3134-3153

  そこに一人の高尚な人間がいました。
彼は類まれな能力のある息子を持っていてそれがパワフルだったので
彼を見た人は皆彼を愛しました。
神は他の人よりも優れた特性を彼に与えたのでした。
彼はあらゆる鳥類の言うことがわかりました。
彼の父の邸宅から一マイル離れたところに
海上の島がありましたが、
一人以外そこに住んでいる者はいませんでした。
岩石の中の一人の隠者。
ある日父親と息子は、
そこへ遊びに行き
彼らが船をこいでいると叫ばれました。
ボートの真ん前の
3羽のワタリガラスが彼らの船尾に飛び降りて来て止まり
大変甲高い声で鳴きしきりました。
子供は賢く謙虚でしたが、
聖霊(the Holy Ghost: 直訳の聖霊は三位一体の第三位)の知恵がありました。
それで3羽の鳥が言った事の意味を理解し
彼はその意味にとても驚きました。
それから彼は急速にオールをこぎました。
Page89, 3154-3191
そして彼の父を見て笑いました。
  彼のそばに座っていた父は問いました。
なぜまた何に彼は笑ったのかと。
「父よ。」彼は答えました。「成功させたまうように、
私は三羽のワタリガラスを見て笑いました。
彼らの甲高い声で話していた事柄、
彼らが止まるとすぐに、
それは私が将来
非常な権力を掌握する人となり
父上は喜んで忙しく立ち働くのです。
私の両手に水を与えるために。
母上もまた喜んで急いで
私の両手を拭くタオルを持って来るのです。」
その父の心は自負心に満ちていたので
そんな事は起こるはずがないと思い
彼の息子の手を取り
彼を海の中に投げ込みました。
  彼が海の中に投げ込まれた時
彼は死ぬほどひどく怖がりました。
風が吹き、海流は荒れ狂い、
子供を海中に押し流しました。
天国に御座す神の助けによって
彼はすぐに一塊の岩に近づきました。
彼は直ちに水中から出て
一つの岩石によじ登りました。
そこで彼は苦しみをなめました。
二日二晩
そこで彼は岩の高い所に座りました。
それにもかかわらず彼には何の救助も見えませんでした。
イエスは彼に一人の助け人を遣わしました。
そこに救い主となる漁夫がやって来たのです。
彼が岩のすぐそばまでやって来た時、
彼の目を上げて見たものは
固い岩の上にいる子供でした。
それから急いでそこに向かって船を漕いで行きました。
岩まで漕ぎ着くと
彼は子供を船の中に乗せました。
その時荒れ狂う海流の波が打ち寄せて
Page90, 3192-3229
それは彼らを海に運びました。
子供が生まれた所はそこからはるかに遠いので
彼のよく知っている事は皆失われました。
そして彼は無事到着しました。
壮麗な城のもとに。
漁夫は子供を船の外に連れ出してから
その城に入るとすぐ
城を管理している城代のところへ行き
彼に骨と皮になっていた子供を売りました。
その子供が知られるとすぐ
彼は慈しまれまた愛され、
その城にいるすべての人々から。
そうして幾冬彼はそこに住みました。
  彼がいたその国で
奇怪な出来事が王様の身にふりかかりました。
不快な鳴き声の三羽のカラスが
何時でもぴったりと王様の後をつけて来るのでした。
彼が馬に乗って行く所へはどこでもあるいは徒歩で行く所へもどこでも.
国民は皆それを気にかけていました。
それゆえに王様は恥ずかしく思いました。
彼はむしろ生まれて来なければよかったと。
彼の国中に彼の命令書が発送されました。
秘密厳守の約束のもとに議会を召集して
貴族全員の賛同を得るために。。
王に生じた窮境について。
子供を預かっていた城代は、
大変きちんと正装して
彼と一緒に子供を連れて
その国王の議会に参上しました。
会議が召集された時
あらゆる階級の人々が来て集まったので
国王はもはや会議を延期しようとはしませんでした。
彼を悲しませたのは何だったのかと国王は話しました。
そして人々にこう申しました。
「誰か私に語り得る者はおらぬか、
カラス達が私に叫ぶそのわけを。
私の不面目にひそんでいる意味を露わにできる者がいるならば、
カラスはもはや叫ばないように。
Page91, 3230-3267
なぜカラスは泣き私は当惑を感じるのであろうか?
私は私の領地の半分をその者に与えます。
またその人物に対してほんとうにすぐにでも確約します。
私は与えることを宣言します。
私の娘をその人物の妻として。
  城から帰って来た子供は、
カラス達の言葉がわかり
その知性は神が彼に授けたものでした。
鳥たちの一つの言葉を彼は知っていました。
子供は彼の師匠に相談を切り出して
言いました。「先生、私です。
真実を語れるのは私です。
何故カラス達が騒々しい叫び声を発するのかを。
そして王様をカラス達から解放するのです。
三羽すべての不愉快極まる大きな叫び声から。」
「すぐに。」彼は言いました。「もしおまえが勇敢ならば、
おまえが言った事を実行するがよい。
国王のもとに私も行き
お前は名乗り出て務めを果たしなさい。」
「師よ。」直ちに彼は言いました。
「ご心配なく私たちの仕事の全精力を発揮しましょう。」
そうして彼は国王の前に歩み出て
言いました。「我こそは、
容易に語ることができる者です。
何故三羽のカラスが王様の頭上や側面で鳴くのであるか。
それは陛下に恥辱を与えていますが、
私が彼らを群れをなして飛び立ち去らせましょう。
陛下がお約束なさったことをお守り下さるのならば。
国王は子供を一心に見つめました。
それから彼に大きな愛のまなざしを向けて
言いました。「私が約束したのはもちろんの事、
私は誓いましょう、さらにまたそれ以上の事も。」
一団の男爵あるいは貴族たちの面前で
その結婚を国王は彼に認めました。
彼はひざまずいて国王に敬意を表しました。
そして彼の談話を論じ始めました。
「国王陛下、陛下が御覧の如く、
Page92,3268-3304
あそこに三羽のカラスが立っています。
二羽はオスで一羽はメスです。
[原文空白箇所]
そのうちの一羽のカラスはとても年を取っていました。
一時期の天候は寒く
だから彼には少しも能力がありませんでした。
彼のつがいのメスのためにほどよくめしにありつくために。
大食のために彼は彼女に対して信義を破りました。
そして彼のつがいのメスの翼を打ち彼女を追い払ってしまったのです。
彼のつがいのメスは四方八方に逃げ
彼女の全力を尽くそうと試みて
勇敢な一羽のカラスと出会いました。
一羽の若いカラスで年老いた鳥ではありませんでした。
つがいとなるメスを探し求めてはいまだかつていませんでした。
それでも彼は彼女を彼の妻としてすぐに娶ることができました。
それから方々彼は飛び歩き回り
彼の妻のために食べ物を十分にあてがいました。
寒い天候は去りました。
餓え、寒さそして至極悲しい時が。
老年のカラスは元気がよくなって
彼の妻を気がふれたかのように探しました。
そして彼らが共にそこにいるのを見つけました。
若いカラスと彼の妻は同棲していたのです。
「彼女はほんとうは私のものです。」彼はそう主張しました。
しかし若い方のカラスは彼が思い違いでそれを主張していると言いました。
その理由で彼らは陛下に叫んでいたのです。
権力を持っているのは王様ですし
それに彼らは陛下の国にやって来たのですから
陛下が判決を下すべきです。
判決が下される者、
永久に、陛下が生きながらふ間、
カラス達がこれ以上叫ぶのを聞くのなら
即座に私の両目をえぐり出してください。」
  どんな時でも彼が行ったほうがよい。
王様は直ちに判決を下しました。
「なぜなら老年のカラスは彼の約束を破り
不当にも己が妻を追い払ったのですから。
私はその判決を下します。
Page93, 3305-3341
彼女を助けて生かしたのは若いカラスです。
彼は彼が選んだ一羽のメスと結婚して
老いた方のカラスは妻を持たずに飛び去るがよい。」
判決が言い渡された時
若いカラスは勝訴しました。
国王は彼らをもう再び見ることはありませんでした。
彼は子供の話を信じたのち、
彼を己が命のように愛し
彼の妻にと彼の娘を与え、
法律で定めた通りに彼の全財産を所有させました。
それで彼は国王を信じました。
カラス達の叫びの解釈によって彼は大変幸福かつ金持ちになりました。
(予言の主題による物語の主人公のように)
しかし当時彼の父は貧乏になっていました。
彼の本国では、実を言うと
彼は恥ずかしくて住めないので
彼の妻とその場所を去り
遠くよその国に来て
そこに住み、彼と彼の妻は
最下層階級の生活を送っていました。
  その子供はひそかに尋ねさせました。
どの町に彼の父と母はいるのだろうかと。
行方を探しに行っていた彼の従者によって彼らの居所はつきとめられました。
フランスのプレシータウンで。
それから従者は再び直ちに戻りました。
できるだけ速く馬を走らせ
彼の足を地面につけて
言いました。「若き王様、私は発見しました。
貴方様が探し出すよう命じていた尋ね人を
フランスのプレシーという都市で。」
その息子は立派な身なりをして
急いでそこへ参りました。
フランス、プレシーの町中に到着すると
彼の父の家近くに宿をとりました。
食事に行く用意ができると
直ちに彼の従者は彼に彼の父の戸口に行く道を教えました。
良妻にして彼の母の許へ、
彼が生きて帰還したことを喜ばせようと。
Page94, 3342-3378
  彼ら従者と王様が家に入ると
子供はすぐさま水を下さいと頼みました。
すると彼の父は歩いて行き
水を持って来てあげたのですが、
彼はすぐに立ち止まりました。
彼の母がタオルを運びたいと願いましたところ
他の者もそれは全然構わないとタオルも運ばれました。
子供はこれらのことを目撃した時、
彼の父と母にぴったりと近寄り
彼は両手でそのタオルを受け取りました。
そして申しました。「本当に私は貴方がたの息子です。
父上、今起こっているのは
私がカラス達の話すのを聞いた事です。
私は嘘をつかずに父上に話しました。
三羽のカラスがカーカーとその鳴き声で言った予言を。
私は彼らの叫び声を理解したからです。
それが理由で父上は私を海に投げました。
しかしイエスがその御手で私を助け
直ちに私を陸地に導いてくれました。
あの時私は海で溺れて死にそうになり
多量の海水に沈みましたが、
そう真に神は私を呪いから守ったのでした。
今父上は暮らし向きが一層悪いご様子でのおもてなし!」
それから息子はもう話しませんでした。

[・・・原文空白箇所・・・・・]

そして彼の父と母とにキスをし合いました。
彼らを大変親切に扱い幸福にしました。
つまり彼らに土地と財宝を与えたので
彼らは肩身の広い暮らしをしたということです。
  皇帝の息子は皇帝に言いました。
「ここに父上の名誉は全く地に落ちたのです。
それは激しやすい血の気故に(感情や情熱の宿るところと想像されている。)
彼の息子を大海に投げ入れました
父上よ、父上はそのような気質です。
裁判という手段を用いずに私の命を奪うなどとは。
裁判なら私は無罪です。
海中に力いっぱい押し込まれた彼以上に。
Page95,3379-3414
しかし皇妃は私を愛していません。
だから彼女の考えとは
魔女の力を借りた魔法と降霊術によって
私を死ぬべく運命づけるという邪念でした。
私の師達は月を見て
私がどうすべきか教えてくれました。
私が召喚されてからずっとその期間のいつの時点でも
もし私が話していたら私は死んだのです。
その上七人の師達も。
こうして私の幸福は悪魔に伴われた悲運に転じました。
どんな場合でも陛下は奥様の示唆によりすがったのです。
彼女は私が死んでいたらよかったのにと願っていましたから。
そういうわけですから陛下は必ず
この時に陛下の思う事をするのかしないのか決定してください。」
  皇帝は優しさに満ちても神の名を口にすることなく
直ちに皇妃に申しました。
「妃よ。」 彼は尋ねました。「何とおっしゃったのですか?」

[・・・・原文空白箇所・・・・]

妃の答えの真意を考えてみよう。
私の頭で。
お前は十分に告訴から自分を守るであろうが、
息子が話したことで私が知った犯罪事実とは如何なるものか。
七賢人らは生きているけれども
お前は屈辱的な死を免れないであろう。」
皇妃は、実を言うと、
地獄の王サタンと悪魔にとりつかれていたのでした。
それにもかかわらず彼女は罪状を否認しないかもしれません。
反逆を企み
魔法を使って故意に裏切行為を行ったことを。
王子を死なせるというおもわくで。
すると彼女は答えました。「閣下、皇帝陛下、
神の慈愛と陛下の名誉のために。
王の望みがなされるように判定を下されよ。
陛下が心に決めたことに私は従うまでです。
断じて私が罪状を否定できなければ、
世間の悪いうわさが私にもたらされます。
陛下の王子が陳述した事柄は、
Page96, 3415-3450
確かに事実です。
それは完全なる私の蜜謀でした。
私は彼を亡き者にしようと欲したのです。
  このように罪を犯した皇妃は、
邪悪の念を認めました。
サタンの誘惑に駆られて黒魔術を用いたことを。
その結果陰謀術数は失敗に終わり直ちに彼女は身を滅ぼすはめになりました。
とうとう彼女に死刑判決が下り
王子の命は守られ
皇妃は命を落としました。

[・・・原文空白箇所・・・・・]
・・・・・・・]
七賢人達は彼の息子を正しい方法で支えました。
昼の間も夜の間も。
彼の学者達二人と五人。
彼らは王子を助けて命を救いました。
七個の物語を彼らが語ることで。
七人の師達は大変豪胆でしたから
策略をめぐらした反逆者に対して語り返しました。
王子の継母である皇妃の物語に相反して。
  したがって皇帝は
彼らをとても尊重して待遇し
彼が考えたことすべてを
七賢人たちの助言によって彼が遂行しました。
それから一生涯男やもめ暮らしをして
彼は再び妻を持とうとはしませんでした。
それは片時も忘れなかったからです。
彼女が謀反を起こした理由も。
もはや彼は彼女の事件を強いて扱うことはしませんでした。
彼らがそれ以上のいざこざを巻き起こさないように。
彼は幸福な生活を送り始め
ストイックな男になりました。
そして彼自身が精一杯努力しました。
法律により人民を統治するために。
また陽気に生き幸福な状態で
神が思し召した時に死んで
天国に行きました。
Page97, 3451-3454
天の喜びと幸いは永遠です。
神が同じ至福を私たちにお与えくださることをお祈りしましょう。
地球を踏んだ者は誰でも、全人類のために。

アーメン、アーメン、 チャリティー、愛のために。

現代日本のカラス


十五編の枠組み物語集 目次